2009年04月29日
『未曾有の経済危機 克服の処方箋』
野口 悠紀雄著 2009年4月16日発行 1680円(税込)
未曾有の経済危機 克服の処方箋―国、企業、個人がなすべきこと
著者:野口 悠紀雄
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-04-17
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本書は本ブログでも紹介した『世界経済危機 日本の罪と罰』の続編であり、書き下ろしのようです。現在の世界経済、日本経済の著者による分析が、一ヶ月前の三月末までのデータを用いてフォローされています。
各種統計データに基づく定量的分析が充実しているのは相変わらずです。著者による日本経済の分析は一般と比べて悲観的なものが多いのですが、冷静に数字を分析すると悲観的にならざるを得ないのかもしれません。
本書の目次は以下の通りです。
- 世界的巨大バブルの大崩壊
- アメリカ経済の収縮はいつ終了するか?
- 深刻な危機に直面するもう一つの輸出大国・中国
- 日本経済の今後の見通し
- 問題の本質は何か?
- この異常事態にどう対処するか?
- 危機に打つ克つため、個人がなすべきこと
最後に各種データへのリンク集があり便利ですが、以下の著者のサイトにまとめられています。
本書の分析も上記のサイトのデータを利用されているものがほとんどであり、高度な分析も公表されている情報からできることがわかります。
サブタイトルに「未曾有の経済危機」とありますが、著者は現在の状況を非常に深刻に捉えておられます。日本については特に悲観的で、GDPが10%程度縮小して景気回復前に戻るとされていますが、数ヶ月前は悲観的に思われたこの予測は、現在となってはコンセンサスになりつつあるようです。
日本がどうすればよいかについては、金融危機以前から主張されていた産業構造の転換が必要であるとされています。
具体的には、外需を重視した構造から内需を志向した経済構造にするべきとのことです。具体的には金融などのサービス産業の比重を高めることを提案されています。また、出生率引き上げ政策を内需拡大に結びつけることも望ましいとされています。
ケインズ的な財政出動も一時的に必要であるとされていますが、問題はどのような公共投資を行うかです。このあたりが非常に重要であると思いますが、使いやすいところに使われてしまうのかもしれません。
政府紙幣や無利子国債についても議論されていますが、著者はそれらには否定的です。また、日銀の株式購入についても、「日銀プット」と銀行への利益供与であるとされています。
最近の著者の本で目につくのは、個人が自己に投資することを強調されていることです。株式などの金融商品への投資はあまり奨められていません。
金融やファイナンス理論についての重要性と必要性に言及されているのは変わりませんが、以前と比べるとやや語気が弱くなっている印象を受けます。その分自分への投資の推奨が増えているように思います。
効率的市場仮説に触れつつ、これからさらに下がる可能性もあるので、現時点での株式投資は奨めておられませんが、これについては異論があるかもしれません。
効率的市場仮説が正しいかどうか自体もわかりませんが、正しいとしたら株はいつ買っても変わらないはずです。
自己への投資が最もリターンが高いのは普遍的とも言えるくらいの真実であると思いますが、日本が著者が提唱されるような資産の運用大国になるためには、なるべく多くの人が投資的な考え方に興味を持って、投資の裾野を広げておく必要があると思います。
著者の経済的分析によると、日本に必要なのは、産業構造の転換による内需拡大ですが、内需拡大の本質は何でしょうか?
著者はサービス産業の重視ですが、これはさらに考えると、日常生活の質を上げることです。日常生活の質を上げるということは、日々の幸福感がより得られるようにするということです。
日々の幸福感は精神的なものなので、経済的なことだけでは改善できないこともあるとは思いますが、人間の日々の生活の幸福感は、健康であること、美味しいものが食べられること、時間的に余裕があること、身近な人々とよい関係が築けること、仕事にやりがいがあること、住居が充実していることなどでしょう。
経済学的分析が内需拡大を要請しているということは、おそらく日本人がもっと幸福感を感じられるような社会を創り出す必要性があるということなのかもしれません。
日本人は外国にモノを売ってお金を稼いできましたが、そろそろ幸福というものを考え直して、自分たちがより快適になれるような仕組みを作るためにお金を使う時期になっているのかもしれません。
内需拡大のために上手にお金を使うためには、幸福について思いを巡らせておく必要があると思います。
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この記事へのコメント
2)<NIRA研究報告:産業構造変化に対応した雇用システムへ転換せよ>
http://blog.livedoor.jp/marubiz/archives/51433724.html
たしかに野口氏の本は実務的な点が弱いとは思いますが、著者の経験上やむを得ない点もあるかもしれません。参考にできるところだけを参考にしたいと思います。
情報ありがとうございます。伊藤元重先生はバランス感覚のよさを感じさせる方ですね。著作も安心して読むことができます。
<ネッツトヨタ南国:独自の経営>QTE
子どもがたくさんいる暮らしは真の幸せ、価値前提の幸せです。良いクルマを買って、ハイビジョンテレビを買って、美味しい物を食べるという生活は事実前提の幸せです。
社内に託児所をつくるのは、価値前提の幸せを追求するためです。いま各種の手当はなくなる方向ですが、育児手当は増やしたい。しかも1人目より2人目、2人目より3人目のほうが金額が多くなるというものです。
http://www.keikakuhiroba.net/executive/19_01.html
子孫繁栄は生物の基本なので、それに基づく政策は国を活性化すると思います。お書きのような原始的な感覚を重視するのは、生物としての基本的な活力を高められると思います。