2009年05月06日
『はじめてのグローバル金融市場論』
藤田 勉著 竹中 平蔵監修
2009年3月30日発行 1500円(税込)
はじめてのグローバル金融市場論
著者:藤田 勉
販売元:毎日新聞社
発売日:2009-03-27
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本書は慶應義塾大学における「グローバル金融市場論」という講義の指定教科書だそうです。著者は金融業界での実務経験が長い方で、監修者と講義を受け持たれているとのことです。
本書は指定教科書ですが、「金融の専門知識の解説などは最小限にとどめ、グローバル金融市場の概論と、経済、企業活動における金融市場の果たす役割を中心に議論を進める」という主旨のため、あまり教科書的な雰囲気はなく、一般の経済書と同じような読後感があります。
本書の目次は以下の通りです。
- なぜ、今、グローバル金融市場論か?
- 米国金融危機の歴史的な位置づけ
- 地球規模のバブル経済
- 日米バブルとその崩壊の比較
- 資本市場と企業経営
- 世界に通用する金融・資本市場の必要性
本書で扱われている内容の多くは現在進行形のものであり、東京が国際金融センターを目指すことなどについては、これからの将来的な内容が書かれています。
本書の読みどころは、今回の金融危機で一般的に言われている「常識」を見直すような考察が多いところです。たとえば、現在は「100年に1度の危機」といわれていますが、果たして本当にそうなのかということなどについて定量的に見直されています。
また、アメリの家計部門が過剰債務、過剰消費であるということなどについても、データを元に説明されています。家計部門の自己資本比率が高く、想像以上に純資産が多いことは意外でした。
以上に述べた二つの事柄を含めて、最初に10の設問があります。設問に対する自分の考えと、本書の説明に違いがあるほど本書を読む意味はあるように思います。
本書では、これからの日本が目指すべき方向性についても提案があります。数年前に盛んにいわれていた日本の金融立国については、今回の金融危機の影響により下火になってしまいましたが、本書では東京を国際金融センターとすることについての提案があります。
金融立国はモノ作りと対比して二者択一的に議論されることが多いのですが、本書に書かれているように、金融が発達するほどモノ作りも発展するという意見は合理的であるように思います。日本に欠けているのは、リスクが高い斬新な新規事業を立ちあげるときのリスクを取れるある程度の規模のお金です。
それ以外にも、アメリカを中心に述べられている世界経済の今後、日米のバブルについての考察、戦前における日本のM&Aの活発さなどについての話は参考になります。
本書は「教科書」とありますが、どちらかというと著者の主張が述べられている本です。本としては主張がはっきりしているほうが面白いので、本書は教科書であるということから最初の時点で面白さを期待していなければ、意外に面白い本であったということになるかもしれません。


