2009年07月16日
『波瀾の時代の幸福論 〜マネー、ビジネス、人生の「足る」を知る』
ジョン・C・ボーグル著 山崎 恵理子訳
2009年7月8日発行 1680円(税込)
波瀾の時代の幸福論 マネー、ビジネス、人生の「足る」を知る
著者:ジョン C ボーグル
販売元:ランダムハウス講談社
発売日:2009-07-09
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著者は世界的に有名な投資会社バンガードを創業された方です。バンガードは、低コストのインデックスファンドを世界的に広めた会社です。
本書の原題は『Enough: True Measures of Money, Business, and Life』(充分:お金、ビジネス、人生の本当の尺度)ですが、「波瀾の時代」という言葉はグリーンスパン前FRB議長の本のタイトルを思い浮かべます。あちらの方は「波乱の時代」なので微妙な違いがあります。
本書の読後感は、しばらく前にベストセラーになった『強欲資本主義 ウォール街の自爆』と似たものがあります。両者ともキリスト教的な倫理観を強く感じさせる本です。
サブタイトルにあるように、マネー、ビジネス、人生について、強欲になりすぎないことの必要性が書かれています。読んでいて否定のしようがない正論が述べられており、納得できる部分も多いのですが、どこか不全感が残ります。
その不全感は、著者が富、社会的地位、名誉などいわゆる世俗的な成功に必要とされる要素全てを持っておられるからかも知れません。
著者が成功の過程においても高潔に生きて来られたであろうことは、本書からも十分に想像できるのですが、多くの人は成功の要素、富、社会的地位、名誉などについて、ほとんど満たされない状態で生きています。
また、資本主義を発展させる原動力の大きな要素が人間の欲望、それもどちらかというとあまり倫理的でないものであることを思うと、欲望が満たされていないほとんどの人に、最初から倫理的であることを要求するのは酷かも知れません。
本書を読んで感じる不全感は、満たされた人が満たされていない人に、倫理的であることを暗に要求しているところから来るのかもしれません。
倫理的であることは必要ですが、おそらくこれは自分で欲望を満たしながら徐々に自分の内部で少しずつ納得していくものであると思います。若いうち、あるいは最初のうちは、欲を満たすためにギラギラしているくらいでちょうどよいと思います。
本書は人生のどの段階で読むかで大きく評価が異なるでしょう。成功して倫理的な心が大きく育ちつつある方が読むと、非常に共感できる内容であると思います。