2009年08月28日
『実証会計学で考える企業価値と株価―本当にいい会社の見分け方』
山本 昌弘/東洋経済新報社財務・企業評価チーム著
2009年9月8日発行 1890円(税込)
実証会計学で考える企業価値と株価―本当にいい会社の見分け方
販売元:東洋経済新報社
発売日:2009-08
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東洋経済新報社が出版してる『会社四季報』や『会社四季報CD-ROM』のデータベースをもとに、「本当にいい会社の見分け方について、実証会計学の視点から解説されたのが本書」だそうです。
本書はどちらかというと学問的な本であり、本書を読んで株式投資のパフォーマンスがアップするかどうかについては、何とも言えないところかもしれません。本書の目次は以下の通りとなります。
- 会計制度が資本市場を変える
- 実証会計学の有用性
- 伝統的な財務指標には気をつけよう
- 企業の実力の測り方---キャッシュフロー分析の基礎
- 成長の原動力はSVAで判断する
- 会計情報に基づく投資判断---複数の指標を同時に使いこなす方法
- 財務以外の情報の活用方法---CSR評価が高い企業は「買い」か
本書は企業財務や会計、ファイナンス理論にあまり馴染みのない方にとっては、必ずしもやさしい本ではないかもしれません。基本となる事柄についての一応説明はありますが、ある程度の知識があることを前提にして、著者と研究チームの研究結果を報告するような内容です。
日本ではアメリカほど実際の企業財務と株価の関係などについての研究がなされていないので、本書に書かれているようなテーマなどで今後の研究の進展が待たれるところです。
本書は株式投資のための本というより、どちらかというと会計について多く学ぶことができる本かもしれません。本書を読むと、会計制度がまだまだ発展途上であることや、企業の会計は恣意性の余地が少なくはないことがわかります。
会計は企業に関する物事の価値をすべて金銭的な数値に置き換えることを前提にしていますが、物事の価値は本来すべてが明確に数値化できるわけではありません。そのため、会計制度はいくら厳密にしても、完全に恣意性を除外することは原理的にできないと思います。
バランスシートを読むときに一番難しいのは、資産の実際の価値を判断することです。資産の価値はバランスシートには個別に載っていますが、実際の価値は別の資産や人、そしてその時代状況との関係によって決まります。
また、研究によって株価と企業財務について、ある事柄で99%正しいといったような結論が出たとしても、実は残りの1%が株式投資における決定的な違いを生じることがあります。
資産の価値は単独で存在するのではなく、さまざまな事との関係性によって決まります。そして、その関係性は常に変わり続けています。そのあたりの判断の難しさが、株式投資の難しさに結びついていると思います。
本書は株式投資に直接役立つ本というよりも、株式投資について考える場合に興味深い本であるといった方がよいように思います。