2009年09月13日
『「世界大不況」は誰が引き起こしたか』
ジョン・カシディー著 松村 保孝訳
2009年9月11日発行 1890円(税込)
「世界大不況」は誰が引き起こしたか~米国「金融エリート」の失敗
著者:ジョン・カシディー
販売元:講談社
発売日:2009-09-11
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本書はサブプライム問題に端を発する金融危機についての本ですが、類書とはやや趣向が異なっています。三名の人物を通じて、今回の金融危機を描写していることに特徴があります。
アメリカの週刊誌『ニューヨーカー』におけるノンフィクションの記事がもとになっています。あとがきによると、『ニューヨーカー』という雑誌は、「アメリカ文芸界をリードする週刊誌として、つとに有名」だそうです。本書でスポットライトが当てられている三名は、金融界で著名な以下の方々です。
- ビクター・ニーダーホッファ(ヘッジファンド・マネージャー)
- E・スタンレー・オニール(メリルリンチ前会長兼CEO)
- ベン・バーナンキ(Fed議長)
三名とも著名で、今回の金融危機に関係が深い方ばかりですが、それぞれ立場が大きく異なります。
最初に採りあげられているビクター・ニーダーホッファは、1997年のアジア金融危機の時に破産してしまったことで有名な方ですが、今回の金融危機においても再び同様のことが生じたようです。
本書の取材は、金融危機の前から始まり、取材の途中で危機が生じたため、ニーダーホッファについての記事には臨場感があり、とくに読みごたえがありました。
本書は金融危機そのものを解説するというよりも、三名の人物の人生を通じて金融危機を語っています。それぞれ方々の人生史が簡単に述べられているところからもそのことがわかります。
タイトルの「誰が引き起こしたか」についてですが、本書を読んでもはっきりとした答えはわかりません。
今回の金融危機のような大きな事柄については、「誰が引き起こしたか」ということについては、いろいろと考えることはできますが、特定の人物にその原因を帰着することは難しいと思います。
何か大きなトラブルが生じると、人間はその原因を求めたくなりますが、人が原因を特定の人物に求めるのは、その問題によって生じた心の不安定さを鎮めるためです。
問題が生じるたびに、昔から同じことが繰り返されていることを見ると、そのような人間の認知方法は根深いことがわかります。根深いため、意識すらできないことがほとんどでしょう。
今回の金融危機の根本的な原因は、おそらく個々の人々の内部に存在する集団的な無知や欲望であると思われますが、人間は通常そのように考えることができません。なぜならそう考えると、自分も原因の一部になってしまう可能性が出てくるからです。
人間は、悪く言うと自分に都合よく、良く言うと自己肯定的に考えるようにできています。
本書のような本を読んでなすべきことは、問題の原因が誰にあるかではなく、問題の原因となるような要素が自分の心の内部にもあるのではないかということを考えてみることかもしれません。
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この記事へのコメント
不況になってはじめて景気がよかったと実感します。
「たまたま勝っているときには自分の投資は正しいと思い込む」そんなことを思います。
ユニクロをある種の犯人にしたてている人がいましたね。
グローバリゼーションは選択でなく事実であるといったようなことを誰かが言っていたように記憶しますが、本当に時間とともに浸透する感じですね。
数年前は実感なき景気回復と言われていましたが、不景気になってようやくあのころはやはり景気がよかったということについては同感です。
ユニクロの商品を買っているのは、かなりの割合の日本人なので、ユニクロを犯人にするのであれば、ユニクロの商品を買っているほとんどの人々は共犯者になってしまいます。