2009年09月18日
『借金大国 アメリカの真実』
アディスン・ウィギン/ケート・インコントレラ著 楡井 浩一訳
2009年10月8日発行 2625円(税込)
借金大国 アメリカの真実
著者:アディソン・ウィギン
販売元:東洋経済新報社
発売日:2009-09-18
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まだアマゾンの書影はないようです。本書は、アメリカの財政赤字に対する警鐘を鳴らす目的で作られたドキュメンタリー映画『I.O.U.S.A』を書籍化したものです。
本書の半分以上はアメリカの金融や財政方面における著名人へのインタビューですが、その顔ぶれが豪華です。全部で10名以上の方々にインタビューされていますが、ロバート・ルービン、ポール・ヴォルカー、アラン・グリーンスパン、ウォーレン・バフェットなどが含まれています。
日本と比べるとアメリカの財政赤字はまだまだ大したことはないのですが、本書では状況は危機的であると書かれています。
本書でアメリカの財政赤字が問題視されているのは、ベビーブーマーの高齢化による社会保障費の増大が予期されることや、国の借金を外国からのファイナンスに頼っていることのようです。
債務残高とGDPの比率で見ると、日本の方がはるかに深刻ですが、日本の国債はほとんどが国内で消化されているのが大きな違いです。それは良い点ではありますが、問題の深刻さを覆い隠してしまうという点ではよくありません。
今のところ日本の国債はほとんどが国内でファイナンスされていますが、国内で消化できなくなった時が問題です。そのような状況では、おそらく外国でも日本国債の買い手はいないことでしょう。そうなると、長期金利急騰→インフレのコースです。
日本でも財政赤字問題を指摘した国家破綻本がひと頃よく出版されていましたが、本書は危機を煽るだけのことが多いそれらの本と比べると、かなり本格的な問題意識と改革の目的を持って書かれているようです。
日本の国家破綻本を批判するときに、負債サイドだけを述べてそれにバランスする資産サイドについて言及していないことがよく言われますが、本書でもそれは同様です。アメリカの借金が問題なことは書かれていますが、国の資産についてはほとんど記述がありません。
本書のインタビューでは、やはりバフェットへのインタビューが個人的には最も興味深く読めました。本書のテーマはアメリカ国民に財政赤字に対する問題意識を持たせるためのもので、インタビューをされる人々はある程度それに配慮して答えているように感じましたが、バフェットの受け答えはマイペースです。
アメリカという国や資本主義に対する強い信頼と楽観性があるようで、財政赤字やアメリカの将来に対しては非常に楽観的な発言が続いています。資本主義によってアメリカ人の生活レベルが上がり続けたことや、自分が富を築いたことなどがその楽観性をもたらしているのでしょう。
本書のインタビューが行われたのは、金融危機が本格化する前なのでよりそう思われるのでしょうが、おそらく今インタビューしてもその楽観性はあまり変わらないかもしれません。
本書のような内容の本やドキュメンタリー映画が作られるところに、まだアメリカの自浄作用があるのを感じます。
日本の財政赤字については、現在は金融危機と景気後退によってそれどころではないので、最近あまり話題になりませんが、相変わらず勢いよく増え続けています。
日本の借金については数年前にさかんに騒がれました。結局あれだけ大騒ぎをしたのに大丈夫かもしれないと以前に比べて安心感が広がっているように思います。あるいは目先のことでそれどころではないのかもしれません。
しかしながら、日本の貯蓄率は低下しており、お金がなくなると金融機関も国債を買えません。皆が安心して問題意識があまりないときこそ注意が必要かもしれません。