2009年09月22日
『メルトダウン 金融溶解』
トーマス・ウッズ著 副島 隆彦監訳 古村 治彦訳
2009年8月10日発行 1890円(税込)
メルトダウン 金融溶解
著者:トーマス・ウッズ
販売元:成甲書房
発売日:2009-07-31
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タイトルや監訳者からはやや陰謀論的な内容の本ではないかという印象を受けるのですが、地に足付いたしっかりしている内容の本です。本書は主張がはっきりしており文章が非常に明快です。今回の金融危機のみならず、金融政策やインフレ・デフレなどについても理解を深めることができます。
本書はオーストリア学派の景気循環理論の考え方を軸にしながら、過去の金融危機の歴史などについて簡単に振り返りつつ、今回の金融危機の分析と解決の指針について述べられています。本書の目次は以下の通りです。
- 重要なのに無視され続けた問題
- 連邦政府はいかにして住宅バブルを生み出したか
- ウォール街への大規模救済策
- 政府が原因となるバブル景気とその崩壊のサイクル
- 大恐慌についての神話
- 通貨という正体不明の生き物について
- 今なすべきことは何か?
本書の主張を一言でまとめると、「政府は経済について余計なことをするべきではない」ということです。景気悪化時における国債を発行しての公共投資などによる景気刺激策はもちろんのこと、中央銀行が金利を調整することも悪影響を与えると書かれています。
中央銀行については存在意義すら否定されており、本書の中心となる主張の一つです。中央銀行が金利を調整すると、本来自然に決まる金利が歪んでしまい、それが経済を非効率化させ、景気循環の幅がより大きくなってしまうからとのことです。
失敗例として過去20年の日本が挙げられています。政府や日銀がどのように介入しても、経済の停滞を持続させ経済を良い方向には導けなかったと述べられています。そして、現在アメリカが進んでいる方向も望ましくない方向であると書かれています。
リチャード・クー氏のような主張もありますが、過去の日本のおける国債の大量発行による公共投資はあまりよくなかったと思われているはずです。
しかしながら、インフレターゲッティングのような緩和的金融政策については、まだ日本で実行されたことがないだけに、期待のある部分も残っています。しかしながら、本書では人為的な金融政策についてはすべて否定的です。
人為的な金融政策について否定的なのは、金融政策はどうしても緩和的になりやすく、規律がなくなってしまうことがその理由としてあるようです。規律を保つために、金本位制への復帰などが提案されています。
現在のアメリカ政府が緊急に行うべきことを、以下のように列挙されています。
- 大企業や銀行を倒産させる
- ファニーメイとフレディマックを廃止する
- 救済策を止め、政府支出を削減する
- 政府による通貨の操作を止める
- 連邦準備制度についてきちんと議論する
- 特別な貸出窓口を閉鎖する
- 通貨の独占を止める
これらのことを実際に行うのは、極めて厳しそうです。もしも本書に書かれていることが正しいとすると、アメリカはしばらく誤魔化しながら景気をなんとか持続させ、その後インフレが生じて景気悪化いうコースをたどるのかもしれません。