2009年10月01日
『金融大狂乱 リーマン・ブラザーズはなぜ暴走したのか』
ローレンス・マクドナルド/パトリック・ロビンソン著 峯村 利哉訳
2009年9月30日発行 1785円(税込)
金融大狂乱 リーマン・ブラザーズはなぜ暴走したのか
著者:ローレンス・マクドナルド
販売元:徳間書店
発売日:2009-09-17
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本書のような本が出版されるのは時間の問題でした。リーマン・ブラザーズの現場で働いていた方による、当時の生々しい内部の状況を描き出した本です。
最後にあとがきを読むまで知らなかったのですが、本書の著者のうち一人は実際にリーマン・ブラザーズで仕事をされていた方で、もう一人はベストセラーを何冊も出しているライターです。
著者がリーマン・ブラザーズに在籍していたのは、リーマン・ブラザーズ破綻のしばらく前までで、4年ほどの間です。アメリカの不動産バブルピークの手前から崩壊までの期間なので、本書ではそのことが集中的に記述されていることになります。
本書の始めの部分では、著者が若い頃から金融業界を志したいきさつや、インターネットバブルの時に債券の格付けをするサイトを起業して立ちあげ、そのサイトを投資銀行に高値で売ったことなども書かれており、リーマンとは関係ないその話も興味深く読むことができます。
本書のような金融業界を描いたドキュメンタリータッチの本は、読み物としてはそれほどは面白くないものも多いのですが、本書は読んでいて引き込まれるような面白さでした。
読みながら、小説のような読みごたえに普通の金融本と異なるものを感じていましたが、あとがきで共著者の一人がライターであることを知って納得できました。
本書は金融関係の用語や概念を使いながらも、適度にわかりやすく単純化されている部分がありますが、その度合いが専門性を感じさせながらも難しくなりすぎないという点でも絶妙でした。
気になった点を挙げるとすれば、善悪がはっきりした形で書かれていることです。
- 経営トップと不動産部門=無能、悪
- 分析、調査、トレーディング部門=有能、善
という対比が著明です。もちろん著者は下の方に属していますが、読者は著者と共感しながら読み進める立場なので、勧善懲悪もののドラマをテレビで見るような感情移入をしてしまいます。
物語としてはその分引き込まれるような感じで、小説を読むように面白く読めるのですが、おそらくややデフォルメされているかもしれません。リーマン・ブラザーズにおいて、著者と対する立場の人は別の視点があるはずです。
そのあたりを勘案して読めば、本書は読み物として非常によくできている本です。破綻までの内部のリアルな様子が、修羅場における人間関係なども交えて描かれています。金融関係の本で手に汗握らせるものはあまりありません。
デフォルメされていますが、比較的わかりやすい形でそのようにされているので、後の時代でも読み手の方で意識的に割り引くこともできると思います。本書は、金融危機を引き起こした歴史的な出来事についての貴重な記録になることでしょう。
今後反対側の立場の方々が当時のことを書いた本が出版・翻訳されることがあれば、ぜひとも読み比べてみたいところです。


