2009年10月07日
『職業”振り込め詐欺”』
NHKスペシャル「職業”詐欺”」取材班著
2009年10月5日発行 1050円(税込)
職業”振り込め詐欺”
著者:NHKスペシャル職業”詐欺”取材班
販売元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2009-10-03
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NHKスペシャル『職業”詐欺”〜増殖する若者犯罪者グループ』が書籍化されたものです。番組は大きな反響があったようで、繰り返し再放送されています。民放のバラエティ化が進んでいますが、その分NHKの番組の価値が際立ってきているかもしれません。
本書は、振り込め詐欺の被害者や加害者に直接取材した内容がもとになっています。捕まってしまった犯罪者への取材はともかく、まだ捕まっていない現在も詐欺を続けている人々への取材は、予想される通りかなりの難航を極めたようです。
事件の性質上、振り込め詐欺の加害者は若者、被害者は若者の親の世代に当たる高齢者です。本書における取材と記述の重点は加害者側に置かれており、実際の読みどころもその部分です。
振り込め詐欺は当然のことながら犯罪であり、行為としては法律違反ですが、本書では格差拡大や不況などの社会問題的な視点からも分析されています。
振り込め詐欺を行っている若者の心理としては、社会と時代に対する絶望、怒りなどがあるようです。知能犯的な要素があり、実際に捕まっているのは20%程度です。
本書ではいかにして捕まらないような工夫を念入りにしているや、どのように組織的に行っているかについて、リアルな様子が具体的に書かれています。
振り込め詐欺をしている人の話を読むと、かなりの合理的思考をしていることが分かるのですが、解せないのはインタビューに応じていることです。足がつかないように必死に知恵を絞っているにもかかわらず取材に応じる人を探すのは大変であったことでしょう。
振り込め詐欺は犯罪であり、もちろん社会的に容認できないことですが、問題の根底には若者と高齢者の経済的格差が大きすぎることがあるのかもしれません。
取り締まりや罰則を厳しくすれば犯罪件数は低下するでしょうが、もとにある問題が解決しているわけではなく、別の形で問題化することでしょう。
以前に『いま20代女性はなぜ40代男性に惹かれるのか』という本を紹介しました。この本の反響は大きかったのですが、この20代女性と40代男性の不倫の問題も若者が経済的に弱者になっていることが大きく関係していると思われ、問題としては振り込め詐欺と同根の要素があります。
詐欺も不倫も普通はあまり望ましい事柄ではありませんが、これらを法律などで規制しても、上で述べたように問題の本質的な解決にはなりません。
現代の日本では高齢者と中高年が経済的資源を寡占しています。経済的資源とはたんに金融資産を有していることだけではなく、有利な雇用形態を持っていることも含みます。
だからといって、中高年以上の人々が悪いわけではありません。個々人がふつうに自分の利益を追求すれば、現在のような形になるのは自然なことです。現代の日本における世代間の経済的格差は、個々人の利益の追求が全体の幸福の総和を最大化するわけではないという一例になっています。
やはりこれは制度的に解決するしかないと思います。年金の支給額と徴収額を下げることや、若者にベーシックインカム的な手当を与えることなどがありますが、政治的な調整が難しいかもしれません。
そのような意味において、子ども手当はネーミングを含めてよくできています。子ども手当の本質は子どもがいる20代、30代の人々への手当です。子どもがいない若者には配分がないという不公平さがあるので、子ども手当に加えて若年カップルへの結婚手当を作ると、非婚化や少子化は改善するかもしれません。
裏技としては、マイルドなインフレにするという方法もあります。インフレになると銀行預金を中心とした高齢者の金融資産の価値は低下し、その分その他の資産価値が上昇します。
インフレになると価値が上昇する不動産や株式も高齢者が多くを持っていますが、若者は人的資本価値が高いので、インフレになるとその分若者の価値がアップする部分があります。
振り込め詐欺は犯罪ですが、見方によってはもっと若者に経済的資源を配分するべきであるという社会的なメッセージなのかもしれません。