2009年10月17日

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『告白的女性論』5

北原 武夫著  2009年10月10日発行  840円(税込)

告白的女性論 (ちくま文庫)告白的女性論 (ちくま文庫)
著者:北原 武夫
販売元:筑摩書房
発売日:2009-10-07
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ちくま文庫の今月の新刊ですが、約50年前に出版された本で、当時のベストセラーです。著者は作家ですが、宇野千代さんの元夫としても知られている方で、すでに30年以上前に亡くなられています。

実は本書は懐かしい本で、二十歳前後に何回か繰り返して読みました。文庫で出版されたので、しばらくぶりに本書を購入して読み返してみましたが、やはり以前とは読んで受ける印象が異なります。



本書は著者が51歳の時に書かれており、昭和33年に出版されています。タイトルに「告白的」とあるように、主に著者の恋愛体験に基づく女性論となっています。

本書では著者が20歳くらいの頃の話も書かれているので、昭和の初め頃からおそらく昭和30年くらいまでのことが題材になっているはずです。太平洋戦争も挟んでおり、時代的に男女関係は抑圧されていたのではないかと思うのですが、少なくとも著者のまわりではそうでもなかったようです。

恋愛という言葉も使われていますし、今風に言うとナンパをして千人斬りをするような男性の存在についても触れられています。また、恋愛のみならず性愛についても述べられています。

文体や言葉遣いからも感じられるように、時代的な制約や風俗の違いはあるのですが、本書を読んで女性の本質はあまり変わっていないことがよくわかります。現代の男性が読んでも、参考になる部分も少なくないはずです。

本書は女性論ですが、女性を語ることは男性を語ることの裏返しでもあり、男性論としても読むことができます。女性が本書を読むと、男性が女性についてどのように思いを巡らせているかがわかると思います。

男性が女性論を書くと観念的になりがちですが、香山リカさんも最後の解説で以下のように書かれています。

「私が感じた「気恥ずかしさ」の原因も、このあたりにある。つまり、北原武夫ほどの人にこれほどの文学的空想や熟考を要求したり、また失望や混乱に陥れたりするほど、女性は巨大で深遠な存在なのだろうか、ということだ。」

男性は女性のことを好きになると、「妄想的」になってしまいますが、その観念性こそが女性を引かせてしまう原因となることはよく見られます。

女性は男性が考えている以上に即物的な面があるので、ある程度恋愛感情が盛り上がれば、男性に現実離れした理想化をされるより、たんに手を握られたりキスをされたりする方がはるかに関係を促進させます。

本書を昔読んだときはあまり感じなかったことで、今回読み返して気がついたことは、本書には随所に著者の女性嫌悪が見られることです。これはさまざまな表現の形を取っていますが、文章の端々に感じられます。

ほとんどの男性は女性嫌悪がありますが、これは女性を強く求めていることの裏返しです。強く求めながらも、女性が思い通りに応えてくれない場合は、女性全般に対する嫌悪の感情が生じやすくなります。

とくにプライドが強い場合は、女性に拒否されると自分の全存在を否定されたように感じるので、さらに嫌悪感が強くなります。本書においては、著者は謙虚さや自信のなさを全面に出して表現していますが、よく読むとその裏には強いプライドを読み取ることができます。

男性はスマートに女性を口説こうとしますが、女性を口説く過程において、女性は男性のプライドを捨てさせるような振る舞いを、どこかで無意識的にすることがよくあると思います。これは、男性が自分のプライドを取るか、その女性を取るかのテストのようなものです。

著者は社会的にも成功して有名になった方であり、女性にモテたであろうことは推察できますが、おそらくプライドを捨てきれずに女性に振られたことも少なからずあったであろうことが推測されます。、

女性を口説く場合はどこかでプライドを捨てる必要があり、口説けない場合も拒否されることによってプライドが傷つきます。強いプライドがあると、いずれにしても女性と関わることはつらさを生じさせることでしょう。

女性を口説く場合に自信は必要ですが、強すぎるプライドは邪魔になります。自分の内部におけるプライドを、女性との関わりにおいてうまく処理できないと、その感情を理性で解決しようとして観念的になってしまいます。

女性について観念的すぎる男性に女性が引いてしまうのは、その男性のプライドの強さを無意識に鋭く感じ取っているからでしょう。

プライドがあまりない男性は、女性に対して素直な欲望をストレートに嫌味なく表現できるので、実際の成功率は高いはずです。

観念的な「思慮深い」男性からすと、「何も考えていない」男性がうまくやって自分がモテないのは納得いかないのですが、その「思慮深さ」はプライドの強さの別の表現であることを考えるとやむを得ないのかもしれません。

男性との将来に自分の人生が大きな影響を受ける可能性のある女性は、自分に近づいてくる男性が何を一番大事思っているかを見透かしています。



investmentbooks at 23:59│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--男女関係 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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