2009年10月18日
『藤巻健史の「金融情報」はこう読め!』
藤巻 健史著 2009年10月25日発行 1575円(税込)
藤巻健史の「金融情報」はこう読め!
著者:藤巻 健史
販売元:光文社
発売日:2009-10-17
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藤巻健史氏の新刊です。松藤民輔氏と同じように、著作に書かれている基本的な主張はいつもほとんど変わりないのですが、状況に合わせて説明の仕方や重点が微妙に違っているのが読みどころです。
藤巻氏の主張をご存知の方には蛇足ですが、氏が日本についていつも言われているのは、株や不動産の資産インフレ、金利上昇、日本国債下落、、円安です。本書はそのうち金利上昇と国債下落に重点が置かれていますが、この二つは同じことの裏表です。本書の目次は以下の通りです。
- 金融情報の正しい読み方
- 金融マーケットは「誤解」で動く
- お金を守り、増やす「6つの原則」
- 金利上昇時代に備えよ
本書は著者の主張を通じて、金融マーケットのさまざま側面について理解を深めることができます。いままでの著者の本のうちでも、バランスよくまとめられており、読みやすく書かれていると思います。
著者の話はいつもポジショントーク的なのですが、本書では最初に自らポジショントーク一般について解説されていることが面白く感じられます。
本書では、今後長期金利が上昇して日本国債が下落しインフレが起こるということが述べられています。これは氏が昔から主張されていることですが、実際はなかなか実現しません。
日本国債が下落する予想についての根拠は、やはり国債の発行残高が年々積み上がっていることにあります。財政の赤字については、マスコミでも最近よく話題になっています。
日本国の借金については、負債に見合う資産があること、ほとんどが国内でファイナンスできていることなどにより、それほど問題視する必要がないという考え方もあります。また、一般会計の財政赤字についても、特別会計と一緒に考える必要があるということも言われます。
結局、日本国債が暴落せず長期金利が低水準に保たれているのは、国債の新たな発行や借り換えが国内でファイナンスできているからです。藤巻氏の主張では、それは国の「マニピュレーション(市場操作)」のためであり、長期的には歪みをもたらしているとのことです。
金融市場の歪みは長期的には正されるはずですが、氏はその歪みが正される方向にポジションを取っているということになります。
国内で日本国債がファイナンスできているのは、郵貯、銀行、公的年金が買っているからです。これらの機関が入札に応じて買い続けているうちは、日本国債は順調に消化され続けることでしょう。
ただし、この状況自体に歪みがあるかもしれません。もしも日本と同じような財政状況の国があったとして、その国が日本国債と同程度の低金利で国債を発行しているとしたら、果たしてそれらの機関はその国の国債を購入するでしょうか。
郵貯、銀行、公的年金が国債を買っているということは、国民が郵貯や銀行に預けているお金や、年金として払い込んでいるお金が国債に化けているということです。銀行預金や年金などの金融資産は、そのほとんどが中高年のものです。
よくある話では、国の莫大な負債を若者が引き継ぐことが否定的に言われますが、全体としてみると現在の若者は中高年者の将来の金融資産も同時に引き継つはずです。正確には、負債と資産を両方引き継ぐので、両者はキャンセルすることになります。
ただし、今後中高年者が貯金を取り崩さないといけないような状況になると、問題が難しくなります。
国民の金融資産の多くが国債として運用されているとすると、金融資産の多くは実際の価値はありません。現在はその価値のなさに皆が気付いていないので、日本円の価値が保たれているのかもしれません。
実際の価値のなさに気付く人が増えるほど、日本円の価値は減少し、これは正のフィードバックを通じて日本円の価値の減価を促進します。高度なインフレが起こることになります。
お金は人間の思い込みで成り立っている面があります。実はその少なからぬ部分が国債として運用されている日本人の預貯金は、自分たちが思っているほどの価値がないのかもしれません。
インフレや長期金利の上昇をきっかけに、皆がそのことに気付き始めた時点で、著者のポジションは利益をもたらします。本書は皆にその「正しい」ポジションの利点とそのポジションをとる方法が述べられており、著者の存在は触媒のようなものです。
日本国の債務の問題は、いつかははっきりと問題化するとは思うのですが、そう思われながら長期間何事もなく過ぎています。危機が言われながらも大丈夫な期間が長いので、最近は以前ほど深刻に語られることがないのですが、「何となくおかしい」状態はいつか問題化して正されるのがマーケットのあり方です。それがいつになるかがわからないだけです。