2009年10月31日
『政権交代バブル』
竹中 平蔵著 2009年11月11日発行 1000円(税込)
政権交代バブル (Voice select)
著者:竹中 平蔵
販売元:PHP研究所
発売日:2009-10-27
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竹中元大臣の新刊です。政権が民主党に交代したことを受けて、御自身の政策や日本経済についての考えが書かれています。
政策などの大筋は、著者が過去に書かれている内容と似ていますが、著者の視点を通した民主党政権の分析や、民主党へのアドバイス的なことが書かれていることが本書の特徴です。本書の目次は以下の通りです。
- 鳩山新政権が抱える不安---「期待」は果たして「希望」に変わるのか
- 鳩山政権による改革のゆくえ
- 民主党がいますぐに取り組むべきこと
- 民主党に知っておいてほしいこと---先例からの教訓
著者は民主党政権について、官僚制度の改革の取り組みなどいくつか評価されているところもありますが、基本的には物足りなく思われているようです。心配されているという方が正確かもしれません。
心配されている部分は、マクロ経済政策に具体性がないこと、財政・金融政策の不十分さ、郵政民営化の中途半端さなど、著者が過去に取り組まれてきたことの多くです。
本書では、小泉政権下で著者が実行されてきたことの意義を再強調されていることも目立ちます。
基本的に著者が目標とされているのは、セーフティネットを整備して、金融緩和、規制緩和などにより競争や効率化を促し、日本経済の競争力を増して成長させるということだと思いますが、なぜか競争の部分だけが強調されてセーフティネットの整備も説かれていることは忘れられがちです。
金融にしろ、規制にしろ、緩和することは今までの社会構造を壊してしまう要素があるので、既得権益を保持している「抵抗勢力」の反対に遭ってしまうのでしょう。
本書に書かれていることは、個人的にはもっともであると思うことが多いのですが、多くの反論できる部分も多いことは想像できます。
本書を読んで感じるのは、著者は説得の表現が優れていることです。利害関係のない立場の人が読めば、本書にはさまざまな工夫により納得されやすいように書かれています。
数日前に『脱線FRB』を紹介したときにも感じましたが、世の中に大きな影響を与えている人が書いたものは、読み手を納得させるためのさまざまな工夫が、目立たない形で取り入れられています。
そのあたりも本書の読みどころと思いますが、それだけに注意して読まないと行けないところもあるかもしれません。
民主党政権は現在セーフティネット的な制度を充実させつつあると思いますが、できればその上で、その後に競争的な経済を成長させる政策を打ち出して欲しいものです。
やや気の長い話になってしまいますが、民主党がそうできないのであれば、民主党がセーフティネットを整備した上で、次に来る政権が成長戦略を打ち出してもよいと思います。