2009年11月02日
『ネットビジネスの終わり』
山本 一郎著 2009年11月4日発行 1000円(税込)
ネットビジネスの終わり (Voice select)
著者:山本 一郎
販売元:PHP研究所
発売日:2009-10-22
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この記事を書いている時点で、アマゾンのレビューにおける本書の評価は必ずしも高くはないのですが、興味深く読めた部分もいくつかありました。タイトルからするとネットビジネスについて書かれているように思われますが、実際は本書のほとんどが出版、新聞、アニメ、ゲームなどのコンテンツ産業について書かれています。
著者は切込隊長としてネット上でも有名な方です。本書に書かれていることの多くは、著者が過去に何冊かの本で書かれていることの延長線上にあります。本書の目次は以下の通りです。
- 「ものづくり信仰」から「売るためのシステムづくり」へ
- 瀕死のメディア産業
- アニメ、ゲームが成長産業になれない理由
- 情報革命ブームの終焉
本書の各章の独立性が比較的高いのは、本書はWeb上で連載された記事がまとめられたものだからのようです。
最初に、日本の製造業が高い技術力を誇る割に外国でその実力に見合った成功を必ずしも収められていない理由をマーケティング力の不足や、業界で資本力を分散しすぎていることから説明されています。
日本国内では電器メーカーなど一つ一つの企業は大きくても、世界的に見ると必ずしも大きくないようです。
興味深かったのは、世界的な規模で眺めて日本の製造業が乱立していることを、国内で多数の出版会社が乱立してることと比較・分析されていることです。業界の構造自体が苦しくなってくると、ある程度の規模と資本力がないと生き抜くのは難しいと予想されています。
アニメやゲーム業界も構造的に利益を得にくいとされています。逆に考えると、もしも利益を残せるような仕組みを考え出すことができれば、ビジネスチャンスがあるのかもしれません。
本書の面白さは、業界の構造の分析にあります。たとえよい会社でも、その業界全体に逆風が吹いていると苦しくなることが多いので、会社を見る前にその会社が属する業界全体を分析することは重要であることがわかります。
ただし、衰退産業の中でイノベーションを起こした会社から急成長する会社が出てくるので、業界の構造が苦しいからといってその業界すべての会社が投資対象にならないわけではありません。
本書で、日本の製造業、アニメ、ゲームなどが分析対象として選ばれているのは、それらが日本の花形産業と見なされていることや、一見大きな利益を出しそうな印象も一般的には残っているため、あえて逆の立場から眺めてみるという主旨もあるのかもしれません。
最後に著者は現在の状況を「不確定な世界」と表現されています。この主張の根底には、グローバリゼーションによって世界全体が大きな変化をしつつあるという時代認識があると思います。
しかしながら、いつの時代もずっと不確定さはつきまとっていたように思います。現在から過去を振り返ると、過去の歴史は確定しているので、過去を振り返るときは過去の時点から見た不確定さを認識しにくくなっていますが、おそらくいずれの時代も将来が確定している感覚はなかったかもしれません。
もしも確定している感覚が存在する時代があったとしても、その「安定性」の少し先にはその時点では認識できない大きな不確定性が潜在していたはずです。
日本の状況が問題なのは、過去の蓄積があるため、世界がもともと不確定さに満ちているという認識が得られにくい状態になっているでしょう。
本書で著者が最も言いたいことは、不確定さの認識を持って世界の現状に厳しく対応していかないと、気がついてみたら日本が世界の発展から取り残されてしまうということだと思います。