2009年11月09日

この記事をクリップ! Yahoo!ブックマークに登録 このエントリーを含むはてなブックマーク

インフレを人為的に起こすことはできるのか?

勝間和代さんが民主党政権の国家戦略局にリフレ政策のプレゼンをしたことをきっかけに、ネット上で議論が盛り上がっています。

政府が日銀に圧力をかけて、マイルドなインフレを誘導するようにすることを提案しているのですが、果たして人為的にインフレを起こすことができるのでしょうか。



これについては、池田信夫blogでQ&A形式の否定的な記事があります。ここで一番中心的な考えは、日銀がマネタリーベースを増やしても、市中のマネーストックは増えないということですね。

しかしながら、国が本気でインフレにしようと思えばできるはずです。よくある話ですが、日銀が紙幣を刷ってヘリコプターからばらまけばインフレになるでしょう。マネタリーベースを増やしても市中のマネーストックが増えないのは、途中に金融機関が存在しているからであり、直接人々にお金をばらまけばインフレになります。

ただし、ヘリコプターからばらまくのは不公平です。外に出れない人や人口密度が高い地域の人は取り分が少なくなってしまいます。

ヘリコプターマネーは極端な話としても、政府が国債を発行して日銀が引き受け、国民に一人一人に定額給付金を与えればよい話です。法律上の話は無視すると、政府が国債を130兆円発行して日銀に引き受けさせ、一人一人に100万円を与えればインフレになる方にベットしたくなります。

100万円が多すぎてハイパーインフレになるのが心配であれば、額を少なくすればよいだけです。また、ある程度の金額を給付しても皆が貯金して使わないということであれば、お金を使うまで給付を続けると宣言して給付し続ければ、いつかはインフレになるはずです。

なぜこれをしないかというと、結局円という通貨や日銀の信認が損なわれる怖れがあるからですね。日銀は「通貨の番人」なので、円の価値を毀損させてはならないという信念があります。

円の価値を毀損させないということは、現金を持っている人のその現金の価値が時間とともに減少しないようにするということです。日銀の論理としては、「円の価値が損なわれる=日銀の信認が毀損される」となっています。

よって、「日銀の信認が損なわれるのでインフレにできない」というのは、結局「インフレにできないのでインフレにできない」ということを言っているに過ぎません。

「信認が損なわれる」という表現は否定的に聞こえるので、「信認を損なわないため」と言われると納得してしまいますが、ここは逆転の発想が必要です。

マイルドなインフレを続けるということは、円の信認を損ない続けるということですが、信認を損なうことは必ずしも悪いことではなく、実はよいことかもしれないということです。

インフレの本質的な意味は、現預金のみにかけられる資産税です。現在の日本では、現預金のほとんどを中高年者が所有しているので、インフレを起こすことは中高年の富を若者に配分するということになります。

現代の日本において、インフレを起こすことは、年金の徴収額を減らし給付額を減らすこととほとんど同じ意味になっています。年金制度の変更は政治上難しいのですが、インフレを起こすことは少しは易しいでしょう。

もちろん中高年者が現預金をたくさん持っているのは、過去に働いてきた年功の蓄積があるので、ある程度は当然な面がありますが、要は程度の問題です。高齢者のお金は消費に回りにくく、リスクも取りにくい性質のお金です。

インフレによってお金の性質を変えると、日本のお金の流れが変わることによって経済を活性化することができるということが、リフレ政策の本質であると思います。勝間さんの目的もそのあたりにあるのではないでしょうか。

インフレ自体は直接は産業構造も変えませんし、日本にある富の全体量を変化させることもありません。しかしながら、富の分布が変化することによって経済が活性化し、その結果として産業構造が変化するという間接的な効果はあるかもしれません。

金融緩和はその名の通り「緩和」なので、既存の富の分布を変化させることにより、社会の構造をも緩めます。社会の構造が緩むと、新しいものが生じて社会が活性化する可能性が高くなりますが、このことこそがまさに現代日本における金融緩和の本質的な意義であると思います。

マイルドなインフレを起こし続けるということは、マイルドに社会を「破壊」し続けるということですが、マイルドな「破壊」は社会の進歩にとって、持続的な変化と刺激をもたらすという点において、積極的な意味もあると思います。リフレ政策の是非は、「破壊」ということをどのようにとらえるかということとも関係があるのかもしれません。

金融緩和が社会構造に対しても緩和的であるのならば、リフレ政策は反体制的とはいわないまでも、脱体制的な面があります。日銀はもともと体制的な存在であるので、自然にしているとどうしても体制的な方向に、つまり金融緩和的でない方向にバイアスがかかってしまう傾向にあると思います。

それだけに日銀にとって緩和的になることは、本来自分たちが自然にやりたい方向とあえて逆を意識しないといけないということになります。おそらく日銀にとって金融を緩和することは、株式投資をする人が市場が悲観の時に株を買うことやバブルで盛り上がっている時に株を売ることと同じような性質の難しさがあるのではないでしょうか。



investmentbooks at 23:58│Comments(2)TrackBack(0)clip!つぶやき--日本経済 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by 鉄馬   2009年11月11日 00:28
こんばんわ。

高橋洋一氏の本にも、「インフレにしろ」、「日銀はバカだ」。

のような事が書いてありました。

理屈は間違ってなさそうだったのですが、先日窃盗かなにかでつかまってしまいましたので、耳を傾ける人は少ないかもしれません。
2. Posted by bestbook   2009年11月11日 01:02
鉄馬さん、コメントありがとうございます。

お書きいただいた通り、高橋洋一氏の本にはよく緩和的な話が出てきます。最近の著作になるほど緩和的な内容が「過激」な印象を受けるのですが、どこか現在の日本の体制を変化させたいという心性とつながっているのかもしれません。それだけに体制側からは快く思われないと思います。

個人的には、リフレ政策はやってみると助けになるかもしれないという程度に思っています。一番重要なのは、国全体の創造力を高めて生産性を上げるような政策であり、さまざまな法律や仕組みの改善が必要です。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
プロフィール
bestbook
家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
このブログについて
2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
ブックマークに登録
このブログをソーシャルブックマークに登録
このブログのはてなブックマーク数
アマゾン検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
あわせて読みたい
あわせて読みたいブログパーツ