2009年11月15日
『図説「愛」の歴史』
ジャック・アタリ/ステファニー・ボンヴィシニ著 横山 紘一監修
大塚 宏子訳 2009年10月10日発行 3990円(税込)
図説「愛」の歴史
著者:ジャック・アタリ/ステファニー・ボンヴィシニ
販売元:原書房
発売日:2009-09-24
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図が多用されているフルカラーの本なので、手に取るとずっしりと重く感じますが、価格にも重量感があります。原著者のジャック・アタリは、最近翻訳出版された『金融危機後の世界』や『21世紀の歴史』のような政治・経済関連の専門家であり、フランス政府の経済政策にも深く関わっている方です。
そのような人物が本書のような「愛」についての本も書いているところに、フランスらしさとヨーロッパのエリートの幅広い教養を感じることができます。本書の目次は以下の通りです。
- 動物の愛
- 愛のはじまり
- 一妻多夫
- 一夫多妻
- 一夫一婦制の発明
- ヨーロッパにおける愛の誕生 11世紀-15世紀
- 愛の賛美 15世紀-18世紀
- 結婚の終焉 19世紀-20世紀
動物の「愛」から説き起こされていますが、本書のテーマは愛というよりも、男女関係の歴史と言った方が正確かもしれません。タイトルの愛という言葉にカッコがついているのもそのためでしょう。
本書は古今東西のさまざまな男女間の関係について、一応歴史的な流れに沿って解説されています。記述としては客観的な内容が多く、あまり実用的な話はありません。
本書を読むと分かるのは、男女のあり方は非常に多様性に富んでいるということです。本書によると一夫一婦制はここ数百年の制度であり、歴史的にも非常に限定された時期のものということになります。また、一夫多妻制は現在でも世界の三分の一の国に存在しています。
人間の男女関係が多様なのは、人の男女関係は本能だけでなく後天的な要因にも大きく影響を受けているからです。男女が求め合うという本質は存在しますが、どのような形で関係を築くかについては幅と多様性があります。
たとえば、わが国においてもほんの数十年前までは結婚相手の顔も見ることすらなく、親が決めた相手とするということがありました。ほとんどの人が恋愛を通じて結婚するようになったのも比較的最近のことです。
男女関係のあり方は、その時代の政治、経済、宗教、文化などによって大きな影響を受けます。本来、性、愛、結婚は別のものですが、現代の日本ではこれら三つが比較的重なって存在しています。
なんとなく一致してるので、一致させられないと悩んでしまうこともあるかもしれませんが、別々のものであると意識できれば、ストレスも少なくなるかもしれません。
男女関係は多様性があるにもかかわらず、特定の時代と文化においては、一つの価値観のようなものができてしまい、それによってしばられがちです。たとえば、一昔前の日本において結婚前の女性が処女でないことを堂々と公言はしにくい状況であったことでしょう。
なぜなら、一昔前の日本において処女でないことは結婚市場における女性の価値を低下させるため、実際に損だったからです。時代や文化によって男女関係のあり方が限定されてしまうのは、男女関係は本質的に損得によって成り立っているからでしょう。
そのように考えると、現在の日本で問題になっている非婚化や少子化を解決するためには、その背後にある損得の問題、つまり経済的な問題に取り組む必要があるはずです。
現代日本における男女のあり方は、今の時代に日本にいる人々にとってはふつうで当たり前に感じることものですが、男女関係のあり方の多様性を考えると、未来から振り返ると、あるいは別の文化から眺めると、非常に特殊な状態なのかもしれません。
少なくとも本書に描かれている男女のあり方の多様性からすると、そう思わざるを得ないと思います。