2010年01月05日
『無頼化する女たち』
水無田 気流著 2009年12月21日発行 798円(税込)
無頼化する女たち (新書y)
著者:水無田気流
販売元:洋泉社
発売日:2009-12-05
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名前からはわかりにくいですが、著者は女性で詩人でもある方です。以前にも『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』という新書を紹介したことがありました。
本書は「無頼」というあまり日常ではそれほど使わない言葉を軸にして、この数十年の「ニッポン女子」について語られています。このような言葉を選択するところに詩人の感性が表れているのかもしれません。本書の目次は以下の通りです。
- ニッポン女子のハッピーリスクと「第一次無頼化」の到来
- 社会のゆがみとニッポン女子の「第二次無頼化」
- 女のパロディとしての「第三次無頼化」
- サバイバル・エリートと婚活現象
- 『おひとりさまの老後』革命
- ニッポン女子無頼化現象が示す真実
著者は詩人なのですが、本書は極めて分析的な本です。分析的なのは著者が大学などで教鞭をとられていることもあるのかもしれません。
分析的ではあるのですが、勝間和代さんを「伝道師」、香山リカさんを「治療師」、上野千鶴子さんを「預言者」としているあたりは、やはり表現が面白いと思います。
著者によると、無頼化とは、「他に頼むものがなく一人で生きていくことを前提に、あらゆる価値基準を決定するようになること」です。
女性によって書かれている女性論には男性が登場しないことが多いのですが、本書も男性の影はほとんど感じられません。また現実的な話が多いのも特徴です。
本書は分析的に書かれているという点において、表面的にはあまり女性的でない印象を受けますが、内容はやはり女性的です。
女性が男性を頼りにするのは、もともと物質的な要素が強く、物質的な面がそれなりに満たされてしまえば、男性が女性を必要とするほどに女性は男性を必要とはしません。そのことは高齢の一人暮らしをしている男女それぞれを考えるとわかりやすいと思います。
以前ほど女性が物質的に男性に依存しなくてもよくなったことを考えると、女性が「無頼化」するのは自然な流れです。女性が男性に依存しなくなる過程においては生きづらさなどを感じることはあるでしょうが、男性が女性と関われない時のような絶望感といったようなものはありません。
本書では現代日本における女性の生きづらさのようなものも書かれているのですが、社会全体が女性化の傾向にあり、女性に親和性が強くなってきていることを考えると、むしろ男性の方が生きづらい時代になってきているのではないかと思います。
年を重ねると女性は「おひとりさま」という存在になることができますが、男性はたんに「ひとり」になってしまいます。最近『おひとりさまの老後』の男性版である『男おひとりさま道』が出ましたが、今一つ盛り上がりに欠けます。女性の独居の老後は考えて備える気になりますが、男性の一人の老後は考える気にすらなりにくいのかもしれません。
本書全体を貫く現代における女性としての生きづらさといったものについては、男性の現状を考えるとむしろ男性の方がつらいはずです。女性自身は意識していないことも多いと思いますが、女性の「弱さ」は男性に対するある種の擬態的な要素があります。そのように考えると、本書は極めて女性的な本であると思います。