2010年01月26日
『新・マネー敗戦―ドル暴落後の日本』
岩本 沙弓著 2010年1月20日発行 903円(税込)
新・マネー敗戦―ドル暴落後の日本
著者:岩本 沙弓
販売元:文藝春秋
発売日:2010-01-20
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本書のタイトルは、すでに出版されてから10年以上経つ『マネー敗戦』に由来しています。これらの二冊は著者は違う方なのですが、文春新書という点では同じです。
本書は新書の経済本の割には、著者の経験や主観的な部分が色濃く反映されています。著者は金融機関においてトレーディングの現場で長く働かれていた方なので、それらのエピソードがとくに面白い本です。本書の目次は以下の通りです。
- 9・11テロ---誰かが知っていた
- サブプライム---グリーンスパンの役割
- プラザ合意---借金棒引きのからくり
- ペーパーマネー---貨幣とは何か
- 基軸通貨国の戦略---ブレトン・ウッズ体制からニクソン・ショックへ
- ペトロドルVS.ペトロユーロ---原油がドルを保証した
- ドル帝国への資金環流---グローバル化の罠
- ドル暴落後の世界---現物資産本位制復活のシナリオ
本書で述べられているのは、国際金融においてアメリカが戦略的・意図的に自らの利になるように歴史的に振る舞ってきたということです。各章のタイトルからもわかるように、ここ数十年の国際金融における主なイベントが、著者の体験を織りまぜて説明されています。
わかりやすいところでは、米国債を外国に買わせ、その後にドル安にして実質的な借金棒引きにするということなどがあります。過去においては日本がそうでしたし、現在は中国がその流れに乗りつつあります。
本書は今後の予測的な内容も書かれています。アマゾンの書影ではオビがありませんが、書店での赤いオビには「「1ドル=59円」衝撃のシナリオ」とあります。
ネタバレになるので具体的には書きにくいのですが、本書の終わりにはドルと石油についての一つの仮説的な予測が書かれており興味深く感じました。石油についての予測は話としては以前からありますが、アメリカの「陰謀」の視点から説明を受けると新鮮です。
本書で説明されているような国際金融の流れが、果たして意図的なものかどうかはわからないところです。国際金融には大きな流れといったものがあり、その一つの解釈が本書の内容になると思いますが、大きな流れは一つの国だけではそれほど意図的に作れないのではないかと個人的には考えています。
どちらかというと、アメリカは国際金融の流れによって常に自然とそうせざるを得なくなっているのではないかと思います。アメリカがドルの減価により本当に得をしているかどうかは、国としての信用の問題などを考えると必ずしも正しいとは言えないかもしれません。
大きな流れからストーリーを自然に組み立てるのは、人間の思考の性質のようなものですが、これだけのストーリーを組み立てることができるのは、著者が国債金融の世界で長年働きながらいろいろと考えてこられたからでしょう。
ある分野でどれくらいストーリーをうまく作れるかは、その分野の専門的な技量がどれくらいあるかを示すことも多いと思います。カルテに記載されている病歴は医者が作った「客観的な」ストーリーですが、よく書かれているストーリーとしての病歴は後の医者が治療するときに参考になります。
本書の予測が当たるにしてもはずれるにしても、ストーリーの一つの結果です。本書はそのストーリーの流れを楽しむ本であると思います。