2010年01月27日
『世界経済の三賢人』
チャールズ・R・モリス著 有賀 裕子訳
2010年1月20日発行 1890円(税込)
世界経済の三賢人
著者:チャールズ・R・モリス
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2010-01-21
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よく見ると書影の文字や写真からわかるのですが、タイトルの「三賢人」とは、ソロス、バフェット、ボルカーの三名の方々です。投資家のソロス、バフェットと来て、元FRB議長のボルカーと続くところにやや違和感を感じるのですが、著者が実際に賢人と思っている人を集めたらこのような組み合わせになったのでしょう。
著者の本は以前に『なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか』を紹介したことがありますが、金融危機のまっただ中において簡潔で読みやすい本だった印象があります。本書も同様に読みやすく、三名の「賢人」についてコンパクトに要領よくまとめられていると思います。
ソロスやバフェットについて書かれた本を読んでいる方には、本書の記述は物足りなく思われる面もあるかもしれませんが、若い頃からのことが簡潔に書かれていることや、今回の金融危機の時期について二人がどのようにしていたかまで言及されているのが読みどころです。
本書ではボルカーについて書かれている部分が参考になりました。そのような点では、本書にはよい意味で期待を裏切られました。
1960年代頃からのアメリカを中心とした国際金融の流れについて書かれており、FRB議長を通じてなど、ボルカーがそのような時期にインフレなどの難題を解決したかが説明されています。その当時の失業率とインフレや金利の調節と通貨供給政策についての考察などが興味深く読めます。
著者はソロスを通じて大きな流れを読むことや柔軟性の重要さを、バフェットを通じて本当の価値を把握することの意義を、そしてボルカーを通じて金融における高潔さの必要性を描きたかったのかもしれません。
終わりの方で、今回の金融危機を含めて経済学者がいかに市場の流れなどを把握していなかったかなどが強調されており、経済学という学問のあり方についての批判などがなされています。
学問は保守的になりがちなので、常に変化し続ける現実を固定的に表現しようとすることには本質的な問題があるようです。
著者は銀行家や弁護士など、どちらかというと実務的な仕事をされていたので、学問的な事柄については否定的な評価をしてしまうのかもしれません。経済学は学説の結論を当てにしすぎなければ、その思考過程や発想から学ぶべきことは多いと思います。