2010年02月13日
『国債大暴落の恐怖』
堀川 直人著 2010年2月12日発行 1365円(税込)
国債大暴落の恐怖
著者:堀川 直人
販売元:PHP研究所
発売日:2010-01-30
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数日前に日本政府の借金が871兆円に達したとのニュースがありました。本書に載っている四半期前の数字は865兆円です。この四半期ではそれほど増えてはいませんが、着実に増加を続けています。
著者は国際金融の仕事を長年されている方です。本書では学生さんとの対話を通じて、日本国の債務の問題点や最悪のシナリオについての予想、そしてスケールの大きな解決策について語られています。本書の目次は以下の通りです。
- 日本初の金融恐慌が始まる
- 国債大暴落で日本社会はどうなるのか
- 日本経済は、なぜダメになったのか
- 日本没落を防ぐ「とっておきの秘策」
- キラリと輝く「黄金の国ジパング」を目指せ
本書はよくある不安を煽るだけの国債暴落本とは一線を画しています。最悪のシナリオについての記述は非常にリアルで生々しいのですが、そのようにならないようにするための著者のアイデアが本書の読みどころと思います。
具体的なことは本書を読んでいただくのがよいのですが、そのアイデアの中心には600兆円の政府紙幣1枚を発行するということがあります。その紙幣によって日本国の着金の多くをチャラにしようという考えですが、その後の提案が興味深いと思います。
最終的には日本を国際金融センターとして再生させるという話です。著者の提案は面白いのですが、ラディカルな提案だけあって現実的な実行はなかなか困難かもしれません。
国だけでなく個人のレベルで考えても、ガラリと違った考え方をして行動を劇的に変化させるのは困難なことです。変わろうと思いながら変われないのは、その状態にあることは過去の積み重ねによって成り立っているため、その時点ではその状態を保っておきたい理由があるからです。
日本の債務の問題については、なんとなくおかしいと長年思われながら何とかなっており、債務がそれほど問題でないという理屈もいくつか言われています。
このような「何となくおかしい」問題は大丈夫と思われながら、結局はいつかは急激に問題が顕在化し、劇的な結末を向かえるのはよくあることです。
最近では、アメリカが経常収支の赤字を他の国々からの借金でファイナンスする国際的な資金循環がそのような問題だったと思いますが、結局はサブプライム問題に端を発した金融危機によって劇的な展開を迎えました。
日本国の債務の問題は、その規模などからも人類史上未知の領域に達しています。この問題は時間とともに何らかの変化が生じるはずですが、どのような顛末に至るかは、国民として当事者ながら非常に興味深い問題であると思っています。
この問題は何らかの形で結末を迎えると思いますが、大きく分けると二つの結末があると思います。一つは日本国民が自分の意思で解決すること、そしてもう一つはどうしようもなくなり金融的な自然の流れによって結末を迎えることです。
後者は悲劇的な結末となることでしょう。前者が望ましいのですが、自分たちの意思で変化するのは現在の状況では極めて難しいと思います。
本書の提案は魅力的なのですが、よく考えると政府紙幣を発行しても富の全体量は変化しません。本書の方法の本質は富の分布を大きく変化させることです。
一般的にそのような方法は困難なことが多いと思います。やはりマイルドに富の分布を望ましい方向に変化させる方法が、現実的な解決策ではないかと思います。そのことすらもなかなか難しいようですが。
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この記事へのコメント
下記は、私が注目する若手エコノミストの意見だが。QTE
日本のソブリン・リスクはどう考えるべきなのか。国際収支が黒字で、巨大な外貨準備を備える日本が、国債デフォルトに陥る心配は当面は考えにくい。米国と同じように対外債務の資金繰りで窮するリスクはない。
むしろ、日本の財政に関しては、支払能力に関して、算術的に辻つまが合わなくなる発散リスクに問題の核心があるとみられる。すでに、税収と新規国債発行は逆転し、今後、税収増加が見込めなくては債務返済の可能性が厳しくなる。
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は日本国債のアウトルックを見直し、先行きの格下げをちらつかせている。日本政府は、6月をめどに中期財政フレームを示すことで、何としても債務発散のリスクを低減しようと試みるだろう。
その場合、筆者の予想では、日本政府が示してくる名目成長率の将来見通しがどのくらい信ぴょう性を持つかが議論の分かれ目だと予想する。2020年度までに名目成長率が平均3%になるという見通しを聞いて、その信ぴょう性を疑わない人などわずかであろう。
日本の場合も、すぐに長期金利の上昇という現象には発展しないだろう。恐ろしいのは、長期金利が上昇しないので財政リスクに鈍感になることである。UNQTE
http://blogs.jp.reuters.com/blog/2010/02/17/%e6%97%a5%e7%b1%b3%e3%81%ae%e3%82%bd%e3%83%96%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%83%bb%e3%83%aa%e3%82%b9%e3%82%af/
今日の日経新聞の広告で、上記の熊野英生氏による新刊を紹介している。私は、最寄の図書館に早速、リクエストした:
「バブルは別の顔をしてやってくる」
熊野英生 ¥893.
日経プレミアシリーズ
紹介いただいた本はちょうど今日紹介した本です。
日本の財政問題がどのような方向に向かうかは興味深いところです。個人的には日本における国債の発行は、本質的には個人のマネーを実は国が利用するための方便になっていると思います。
個人マネーは結局国に使われてしまっており、実質的な価値は大きく減少していると思うのですが、あとはいかにしてそのことが全体に認識されていくかかもしれません。