2010年03月12日
『「金融植民地」を奪取せよ ― ジリ貧日本を救う「投資パラダイス」の発想』
前田 充浩著 2010年3月19日発行 1700円(税込)
「金融植民地」を奪取せよ ― ジリ貧日本を救う「投資パラダイス」の発想
著者:前田 充浩
販売元:プレジデント社
発売日:2010-03-11
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タイトルの「金融植民地」には過激な響きがありますが、本書のテーマはいかにして日本が国際金融の面で諸外国に対し戦略的に振る舞うべきかということです。
著者は「金融地政学」を独自に提唱されている方で、世界の大学や研究所などで御自身の目的に沿って自由に研究をされているようです。本書は大きく三つの部分に分けられています。
- 金融地政学
- 勢力圏争奪戦における日本の戦い
- 新たな開発ファイナンス
開発ファイナンスとは、たとえば途上国を国のレベルで金融面において支援することにより、その後の日本企業がその国でビジネスをスムーズに行って、日系企業が利益を得やすくなるということです。
現在は戦争など表面上の戦いは少なくなっていますが、水面下では金融面での熾烈な戦いが繰り広げられているということが前提になっています。それらの具体例については本書に解説されています。
日本は過去数十年においては、ODAを通じたの円借款によってうまく立ち回ってきたと本書では書かれていますが、現在はその方法は金融面で立ち後れているので、今後は戦略的にそのやり方を作り直す必要があるということが本書の提案です。本書では著者の一つの試案が最後に説明されています。
開発ファイナンスの競争については、たとえば中国が近年アフリカ諸国に資金を提供していることを考えるとイメージしやすいと思います。
本書に書かれていることの前提には、途上国の発展を通じて大きな富が産み出されること、今後も途上国が先進国の援助を受けて発展することなどがあります。
本書で述べられているのは、主として対外的な戦略です。日本が過去に対外的に円借款でうまく立ち回れたのは、日本自体に経済力があったからということも大きいと思います。
対外的な戦略はもちろん重要ですが、おそらく対外的にうまく立ち回るための必要条件として、日本自体がある程度の経済成長を続けていることがあると思います。ビジネスと同じで儲かっているところには、おいしい話が持ち込まれやすくなります。
ただし現在はグローバル化により国の経済成長は他の国々との経済的な関係と以前よりも関係が深くなってきているので、このあたりは問題として切り離せなくなってきているかもしれません。そのような意味において、本書のような問題意識はより重要になってきているようです。
著者の目的は本書の結論が受け入れられるよりも、本書を通じて「金融地政学」的な問題意識をより多くの人が持つことと思われます。本書に書かれているような問題意識は、日本では官僚の方が持っているのではないかと思いますが、今後は一般的にもより多くの人が問題意識を持つようになる方がよいのかもしれません。