2010年04月25日
家業再生34
前に少し記事に書きましたが、少しのバラツキはあるものの当ホテルの決算における最終損益は数年前からほぼプラスマイナスゼロです。問題が全くないわけではありませんが、借入金の返済も滞ったことはありません。
本格的な設備や業務の改善は、ブログにも書いているように最近始めたばかりです。サービス、設備ともにかなり不足している部分があることは他のホテルに泊まっているとよくわかります。にもかかわらず赤字ではない・・・、ということはビジネスホテル自体が儲かる商売なのでしょうか?
実は当ホテルが赤字でないのには理由があります。おわかりの方もいると思いますが、家賃と役員報酬が相場よりもかなり低くなっているからです。当然ながら株主である父親への配当も行っていません。
家賃は父親に、役員報酬は両親が受け取っているのですが、数年前に節税の意味もあってかなりこれらを削りました。配当は開業当初から払っていないと思います。もしもこれらを相場通りに払えば、当ホテルは数千万円の大赤字です。
もしも他人の土地を借りて商売をしており、役員が身内でなかったとしたら、当ホテルはとっくに潰れていることでしょう。
そのように考えると、現在行っている再生は、新たな価値を創り出しているわけではなく、世間並みの家賃、役員報酬、そして配当が払えるような会社にしようとしていることになります。
当ホテルの経営がきちんとなされていなかったのに現在まで会社が存続しているのは、株主、土地の貸し手、役員が家族だったからです。
会社が存続したのでよかったという考え方もありますが、あまり価値を創り出していないビジネスが継続されてしまったという点では、社会にとってはあまり望ましくなかったかもしれません。
もしも他の経営者がうまくやっていれば、父親は相応の家賃をもらい、自分で働くこともなく左うちわだったことでしょう。そしてホテルに宿泊されるお客様も快適に宿泊できていたはずです。
このことからわかるのは、やはり株主、経営者、社員、不動産の貸し手などがそれぞれ違う方がよいということです。自然に会社に緊張感が生じるので、常に業務改善が行われやすい状態になります。
もちろんこれらが一体になっていても、緊張感を持って経営に当たっている同族の会社は多いとは思いますが、緊張感がなくなってしまって経営が傾いた場合の自浄作用が働きにくくなってしまうこともよく見られます。
東京にある書店で考えてみましょう。地下鉄やJRの駅で降りると、昔からその場所で営業していると思われる個人書店があります。
そのような書店は小さいものが多いのですが、それらのうちには山手線の駅前の一等地にありながらも、置かれているのはほとんどが雑誌と最近の新刊少々、新書も数十年前から置いてあるのではないかと思われるようなページが変色した岩波新書があるくらいです。
書棚はほとんど手入れされておらず、店全体が黒っぽい雰囲気で、店番のおばさんが近所の別のおばさんと長時間世間話をしていたりします。そのような書店で最近はほとんど見かけないめずらしい本を発見するマニアックな楽しみはあるのですが、はっきり言ってほとんど営業努力が感じられません。
おそらく月の売上げは数十万単位のはずで、手元には20〜30万円くらいしか残らないかもしれません。しかしながら、そのような状態でもその書店は存続しています。なぜならその書店はおそらく自分の土地と建物で営業しているからです。ローン返済のない自分の持ち家があれば、生活できないこともありません。
駅前の個人書店と当ホテルの業種は違いますが、そのように考えるとビジネスが存続している構造としては共通しているものがあります。そのようなビジネスのあり方をどのように考えるかは、いろいろな立場があると思います。べつにガツガツ儲けなくても、のんびり働きながら何とか食えていければよいという考え方もあるでしょう。
いずれにしてもそのようなビジネスが存続するのは、所有することが流動性を低めているということはあると思います。
所有ということは、所有できるかもしれないという将来への期待を持たせてモチベーションを高める働きがありますが、非効率性を温存してしまうというマイナス面もあります。
自分が所有にこだわっている場合は、その所有に対するこだわりがよい方に作用しているか、それとも悪い方に導いているかを振り返ってみるとよいかもしれません。
もちろん所有に限らず、なんらかのこだわりがある場合は、そのこだわりが自分にとって、そして他者にとってどのように作用しているかを立ち止まって考えてみるのは大事なことかもしれません。
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この記事へのコメント
bestbookさんのお父さんの場合、これにあてはまるのかもしれません。
資産があるのも善し悪しですね。
たしかに複式簿記についての最低限の知識は企業経営に必須だと思います。そのような知識なく、企業という資産を運用するのは自分のみならず、周囲の人にとってもよくないかもしれません。
資産はうまく管理できないと自分自身がその重さに押しつぶされてしまうようです。