2010年04月30日
家業再生36
前回の記事が長くなりそうだったので、途中で終わりましたが、今日はその続きです。
当ホテルと同じくらいの時期に開業したチェーン店系のホテルのことを考えると、25年前にビジネスホテルを始めたのは絶好のチャンスだったかもしれないと母に話しました。母はこちらが冗談を言っていると思ったのか、苦笑しながら
「ああいう大手とうちとは全然違う。」
という答えが返ってきました。この母の答えは半分正しく、半分間違っています。
半分正しいのは、たしかに全国に100前後の支店があるホテルはうちとは全く違います。備品なども大量に仕入れるため仕入れのバイイングパワーがあるでしょうし、他の有力企業ともよい条件で種々の提携ができます。
知名度もあるため宿泊される人に対する信用もありますし、全国にあるチェーン店共通のポイントカードなどによる囲い込みもできます。銀行にも信用があるため、資金も調達しやすく設備投資などもしやすいことでしょう。また、会社として組織化されているため、人材も集まりやすいと思います。たしかに母の言うとおりです。
しかしながら母の話が半分間違っているのは、現在は大きくなっているチェーン店系のホテルも、開業当初は当ホテルと同じくらいの時期に同程度の規模でビジネスをしていたことです。最初の資産規模で考えると、ひょっとすると当ホテルの方が有利であった可能性すらあります。
わずか25年の間に売り上げで100倍以上、当ホテルの利益を実質的にゼロと考えると、利益で無限大の差が開いてしまいました。
しかしながら、大きくなっているホテルも最初から完成されたノウハウや人材があったわけではなく、小さな規模からビジネスを始めて、日々時代の流れやお客さまのニーズを読み取りながら、努力と工夫を継続して大きくなったはずです。
バブルが崩壊してからの20年は、宿泊業界にとってはつらい時代でしたが、ビジネスホテルという業態に関して考えると、必ずしも苦しい時代ではなく、大きなチャンスでした。
なぜなら、景気があまりよくなかったため比較的安価に宿泊したいというニーズは常にあり、そのニーズに対してビジネスホテルの供給が不足しており、さらには宿泊施設のサービスも十分に洗練されていなかったからです。
以前家業のことについて話す場合には口が重くなる父に、なぜうまくいかなくなったのかを尋ねたことがあります。父の返答は以下の一言でした。
「景気が悪かったから」
たしかに日経平均の長期のチャートを見ても日本の景気は悪かったと思いますし、世間でもずっと景気が悪いと言われ続けてきました。しかしながら、その「景気の悪さ」を逆に追い風としてビジネスを全国規模にまで拡大した同業者の方が多数いるわけです。
人間は自分が見たいようにしか世界を見ないことが多いのですが、ビジネスにおいても同じです。ひょっとしたら空前のチャンスの時代にいたのに、単なる不景気にしか思えなかったのは、常に自分を意識的に変化させることに対する抵抗だったのかもしれません。
両親について批判的に書いていますが、過去のことを振り返って後付け的に批判や解釈をするのは容易です。今から振り返ると当時は絶好のチャンスだったのですが、あくまで結果論かもしれません。
その証拠に将来から振り返って、ビジネスホテル業界という商売が現在どのようなポジションにいるのかは原点でははっきりしたことは言えません。そして将来が不透明であるという点においては、25年前も同じであったことでしょう。
ビジネスホテル業界についていろいろと予想することはあります。しかしながら、未来のことなので業界の将来はわからない部分も多いのですが、今も昔も正しいのは、常にお客さまの満足を把握するようにして日々「カイゼン」することの重要性だと思います。