2010年06月22日
『ソロスの講義録 資本主義の呪縛を超えて』
ジョージ・ソロス著 徳川 家広訳
2010年6月15日発行 1470円(税込)
ソロスの講義録 資本主義の呪縛を超えて
著者:ジョージ・ソロス
販売元:講談社
発売日:2010-06-16
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本書は比較的最近の大学における講義が元になっている本です。ソロス自身が、自分の哲学、世界経済の現状、今後の見通しなどについて自由に語っています。今回の金融危機とも関係ある内容であることが、とくに興味深い点でした。
本書は以下の5つの講義からなっています。
- 人間不確実性の原理
- 「再帰性」と金融市場
- 開かれた社会
- 資本主義vs.「開かれた社会」
- 未来へ向けて
ソロスの再帰性などについて述べられている哲学は、本質的にはそれほど難解なことを言っているわけではないと思うのですが、本人による話し言葉の説明を読んでも抽象的でそれほど理解しやすくはありません。
あまり哲学的な表現を好まない方であれば、哲学について書かれている本書の前半部分は退屈に感じるかもしれません。
やはり本書の読みどころは、ソロスが現時点で資本主義、金融市場、世界経済をどのように眺めているかにあると思います。
最近のソロスの本を読まれている方にとっては、本書に書かれていることは今までの話と大きく異なっていると感じられる部分は少ないと思います。
市場について、とくに金融市場についてはより国家の規制が必要であるというのがソロスの主張ですが、その根底にはソロスの哲学が内包している世界に対する不可知論的な考えがあるようです。
前著と同じくアメリカの衰退と中国の台頭という長期的なトレンドについては、今のところその予想は変わっていないようです。興味深かったのは、国家が金融市場を管理していることが中国の発展と結びついていると書かれていることでした。
日本については、一時期世界を制覇するかに見えたにもかかわらず失速してしまったという見方のようです。
本書はいろいろな意味においてソロスらしさがよく滲み出ている本であると思います。必ずしも読後感はすっきりしないかもしれませんが、ソロスの雰囲気を感じてみたい方には、ソロスの本の中では比較的まとまっており取っつきやすい本かもしれません。