本--経営者
2009年12月16日
『逆境を生き抜く名経営者、先哲の箴言』
北尾 吉孝著 2009年12月30日発行 777円(税込)
逆境を生き抜く名経営者、先哲の箴言 (朝日新書)
著者:北尾 吉孝
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-11
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著者はSBIホールディングスのCEOをされている方です。過去にも古典を題材にした経営論についての本などを書かれていますが、新書は本書が初めてと思います。
SBIという会社はインターネット専門の金融業を中心に行っており、グローバルな展開も豊富で事業内容が興味深い会社です。そして、いろいろな意味で著者も経営者として興味深い方です。本書は大きく三つの部分に分かれています。
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『リクルート事件・江副浩正の真実』
江副 浩正著 2009年10月25日発行 1575円(税込)
リクルート事件・江副浩正の真実
著者:江副浩正
販売元:中央公論新社
発売日:2009-10-23
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約20年前に日本中を大きく揺さぶったリクルート事件について、事件の中心人物である元リクルート社長の江副浩正氏御自身が自分の立場から書かれている本です。
江副氏の立場から事件を本格的に振り返った本は本書が初めてです。長年にわたる裁判も終結しており事件としてはけじめがついていますが、リクルート事件から読み取れる問題の本質は、現在も存在していると思います。本書の目次は以下の通りです。
続きを読む2009年10月21日
『生命保険のカラクリ』
岩瀬 大輔著 2009年10月20日発行 819円(税込)
生命保険のカラクリ (文春新書)
著者:岩瀬 大輔
販売元:文藝春秋
発売日:2009-10-17
おすすめ度:
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著者はインターネット専業の生命保険会社であるライフネット生命を創業し、現在は副社長をされている方です。本ブログでは『ハーバードMBA留学記』という著者の本を2年くらい前に紹介しました。
その著作では、たしか事業を立ち上げ始めるところで話が終わっていましたが、その後実際に開業にいたり、現在会社は順調に軌道に乗り始めていることが本書からもわかります。本書の目次は以下の通りです。
続きを読む2009年10月15日
『成功は一日で捨て去れ』
柳井 正著 2009年10月15日発行 1470円(税込)
成功は一日で捨て去れ
著者:柳井 正
販売元:新潮社
発売日:2009-10-15
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著者はファースト・リテイリングの会長兼社長です。ファースト・リテイリングと言うよりユニクロといった方がわかりやすいと思います。
ユニクロの経営についての著者の本は過去に文庫でも読めるようになっている『一勝九敗』があります。そちらは創業から約6年くらい前までのことが書かれています。本書は著者がいったん社長を辞めて会長になり、その後再び社長となって経営の第一線に復帰されてからのことや、今後のグローバルな事業展開の目標について熱く語られています。
続きを読む2009年05月12日
『タイツくん 哀愁のジャパニーズドリーム』
松岡 宏行著 2009年5月15日発行 1470円(税込)
タイツくん 哀愁のジャパニーズドリーム
著者:松岡 宏行
販売元:大和書房
発売日:2009-05-08
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よく目にするキャラクターですが、このキャラクターが「タイツくん」と名付けられているのは本書で初めて知りました。本書の著者は、このキャラクターを生み出したキャラクター&コンテンツビジネスのスイスイ社を起業し経営されている方です。
本書は、著者の半生を振り返りながら、起業や会社経営についての苦労と工夫が述べられているのみならず、失恋や引きこもりの部分についてまでも書かれています。本書の目次は以下の通りです。
続きを読む2009年04月06日
『修羅場のビジネス突破力』
佐倉 住嘉著 2009年4月6日発行 735円(税込)
修羅場のビジネス突破力 (小学館101新書 26)
著者:佐倉 住嘉
販売元:小学館
発売日:2009-04-01
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著者は30年間にわたりボーズ社の日本法人代表取締役をされていた方です。スピーカーの会社と言えば、ボーズがどのような会社か、多くの方はおわかりと思います。
本書は著者の現場における長年の体験を通じて、ビジネス一般に通じる考え方が、以下の目次のようにさまざまな点から述べられています。
続きを読む2009年02月08日
『こうして私は外資4社のトップになった』
秋元 征紘著 2009年2月12日発行 1575円(税込)
こうして私は外資4社のトップになった
著者:秋元 征紘
販売元:東洋経済新報社
発売日:2009-02
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タイトルにある「トップ」とは経営サイドの意味であり、必ずしも社長を意味しているわけではありません。外資4社とは、日本ペプシ・コーラ、日本ケンタッキーフライドチキン、ナイキジャパン、LVMHグループ ゲランです。すべて有名企業です。
本書には、著者が30年以上にわたってグローバルビジネスで経験されたことが、以下のように章ごとに分類されて書かれています。
続きを読む2008年11月07日
『スティーブ・ジョブズの流儀』
2008年10月22日発行 1890円(税込)
アップルの創業者であり、アップルコンピュータの現CEOであるスティーブ・ジョブズについての本です。評価の幅が広いジョブズの人となりを、なるべく偏りがないように解説しつつ、モノ作り、マーケティング、経営などについて解説されています。
全部で8つの章から成りますが、章末にその章から得られたビジネスでのヒントが「スティーブに学ぶ教訓」として簡潔にまとめられています。この部分だけでも要点はつかめますが、やはり本文も読む方が要点の内容もよく理解できます。
続きを読む2008年09月14日
『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』
鳥羽 博道著 2008年9月1日発行 700円(税込)
ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記 (日経ビジネス人文庫 ブルー と 4-1)
現在はすでに経営の第一線からは引退されているようですが、著者はドトールコーヒーを創業された方です。本書は9年近く前に出版された本が文庫になったもので、少しだけ加筆されていますが、単行本と大きな違いはないようです。9年近く前に書かれた本書の内容は現在でも通用するからでしょう。
本書はタイトルにあるようにドトールコーヒーの創業記ですが、著者の自伝にもなっています。本書によるとドトールは現在1100以上の店舗があるそうです。ほとんどの方は一度は行ったことがあるのではないでしょうか。1日に60万人の人が利用するそうです。
続きを読む2008年08月19日
2008年05月07日
『強運になる4つの方程式』
渡邉 美樹著 2008年5月1日発行 777円(税込)
強運になる4つの方程式-もうダメだ、をいかに乗り切るか (祥伝社新書114)
外食産業を軸として、介護、農業、環境、教育などの事業を幅広く展開するワタミの創業者兼社長である渡邉美樹氏の新刊です。本書の最後にあるQ&Aは、働き始めの新社会人を対象にしているようです。
著者は過去にも数多くの著作がありますが、本書は最近のコムスン買収についてワタミの関わりを解説した後、著者の人生経験に基づいて、以下の「強運になる4つの方程式」を解説しています。
続きを読む2008年04月04日
『もの言う株主―ヘッジファンドが会社にやってきた!』
ヴェルナー・G・ザイフェルト/ハンス=ヨハヒム・フォート著
北村 園子訳 2008年3月25日発行 1890円(税込)
著者の一人はドイツ取引所のCEOをされていた方です。CEOであった著者が中心となって、ドイツ取引所がロンドン証券取引所を吸収合併しようとする2005年の最中、ヘッジファンドのTCI(ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド)が突如「もの言う株主」として著者の前に登場しました。本書は両者の格闘の記録です。
TCIは我が国においても、電源開発会社であるJパワーに対する「もの言う株主」としてマスコミに登場する機会が増えています。本書は経営サイドの立場から書かれている本なので偏りはありますが、「もの言う株主」と経営陣との対立構造を考える上で参考になります。
続きを読む2008年02月01日
『ビートたけしは「財テク」の天才だった!』
大村 大次郎著 2008年1月31日発行 1575円(税込)
税金モノの本を数多く書いている、元国税調査官大村大次郎氏の新作です。ビートたけしを、節税やビジネスの視点から捉えている本です。
今までの大村氏の本を読んで、似たような内容を期待して本書を買うとやや物足りない面もあるかもしれません。なぜなら、著者にとって、「この本を書くことは転職時からの夢だった」からです。
続きを読む2008年01月16日
『ハンバーガーの教訓』
原田 泳幸著 2008年1月10日発行 720円(税込)
ハンバーガーの教訓―消費者の欲求を考える意味 (角川oneテーマ21 C 142)
日本マクドナルドホールディングス会長兼社長兼CEOである原田泳幸氏による本です。マック(アップルコンピューター)からマック(マクドナルド)への転身ということでも話題になりました。
本書は、自身マクドナルドの経験に基づいた経営論がテーマですが、キャリアやビジネス一般についても、ご自分の経験を通して語られており、勉強になります。
続きを読む2007年08月21日
『熱湯経営』
樋口 武男著 2007年8月20日発行 735円(税込)
著者は、住宅業界で積水ハウスと首位を争う、大和ハウス工業の代表取締役会長兼CEOです。本書では、著者が大和ハウスに入社された一社員の時から会社のトップになるまでの創業者とのやりとり、そしてトップになってからの経営に対する考え方が分かりやすく書き記されています。
タイトルからも想像がつくのですが、著者は熱い方です。本書を読むと、企業経営においてまず必要とされるのは、なによりもやる気と意欲であるということがよく分かります。著者は、本書で成功する人の12ヶ条を以下のように書かれています。
- 人間的成長を求め続ける
- 自信と誇りを持つ
- 常に明確な目標を指向
- 他人の幸福に役立ちたい
- 良い自己訓練を習慣化
- 失敗も成功につなげる
- 今ここに100パーセント全力投球
- 自己投資を続ける
- 何事も信じ行動する
- 時間を有効に活用
- できる方法を考える
- 可能性に挑戦し続ける
大和ハウスというと、三洋電機やダイエーなどとともにカリスマ的な経営者により、日本の高度経済成長を支えた、関西が本拠地の企業というイメージがありますが、本書のほとんどの部分も、創業者のエピソードが豊富に語られています。
高度経済成長の時期には、発展の方向性が定まっていることが多いため、カリスマ的な経営者に導かれた、求心力のある企業が成長しやすい傾向にあります。時代の移り変わりにより、同族経営を前面に押し出した企業の形態は、批判を受けることが多いのですが、日本経済においては一定の役割を果たしたと思います。
株価を見るかぎりでは、大和ハウスはバブル崩壊の時期を乗り越えて、蘇っているようです。本書からも復活の様子が読み取れます。
2007年08月04日
『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』
ひろゆき(西村 博之)著 2007年7月1日 777円(税込)
街に出てから少し経った本です。売れているようなので買って読んでみました。著者は掲示板2ちゃんねるの管理人である、ひろゆき氏です。最近はニコニコ動画がヒットしています。
あとがきにもありますが、本書はインタビューをまとめた本です。佐々木俊尚氏や小飼弾氏との対談も収録されており、小飼氏との対談がとくに面白く読めました。
本書が面白いのは、ネット業界の渦中にある人物が本音で業界のことを語っているところです。ミクシィなどのIT業界の株価についても書かれており、投資的にも参考になります。ミクシィについては、よいサービスなので上場したのがもったいなかったとの意見です。
数年前は子会社が上場するという情報で親会社の株価がよく上がっていました。本当に儲かる事業であれば、子会社を上場させるべきではなく、上場させることはむしろ本当は下落要因のように思います。
ネットについては、定量的な見方が参考になります。定量的な話が合理的にできるのは、2ちゃんねるの管理人をされているからでしょう。
最近話題のセカンドライフの将来性については、懐疑的に書かれています。全体的に冷めた視点が目立ちますが、ひと味違うひねりが効いており、業界にそこそこの興味しかなくても読みごたえがあると思います。
2007年06月28日
『起業の条件』
折口 雅博著 1997年2月20日 1359円(税別)
コムスンの件で、最近世間を騒がせているグッドウィルグループ会長の折口雅博氏が、約10年前に書いた本です。この本が出版されたときは、グッドウィルが設立されて2年ほどしか経っておらず、売上げも40億円程度、株式の上場もされていませんでした。
本書は10年前の本ですが、時代的背景に関係した記述を除くと、古さを感じさせず、今でもじゅうぶん通用する内容です。著者の折口氏の非凡さを感じさせます。この頃本書を読んでいていたら、企業としてのグッドウィルに興味を持っていたかもしれません。
全体を通して、折口氏の半生の自伝を通して起業や経営の心構えを解説する内容になっています。2年前に以下の本も出版されましたが、より若い頃に書かれた本書の方に原点を感じます。
折口氏を特徴づける、一般の人と異なるエピソードとしては
- 少年時代に父親の会社が倒産して、つらい生活を送った
- 高校・大学と防衛関係の学校で学び、厳しい寮生活を送った
- 商社でのサラリーマン時代にジュリアナ東京をプロデュースした
- ジュリアナのプロデュースには成功したが報酬が得られなかった
などがありますが、このような経験から、なんとしても起業して、事業を大きくしたいという強い想いが湧き上がってきたのかもしれません。
ジュリアナをプロデュースしたエピソードを読むと、時代や物事の本質を見る目、企画力、実行力、人を巻き込む能力、プレゼン力、資金調達力、そしてなによりも物事を成し遂げようという執念において傑出していたものがあると思わされます。
本書で印象に残ったところをいくつか書きます。
「また、これは私の個人的な体験から生まれた思いなのだが、在宅介護ビジネスも展開していきたいと考えている。父が亡くなるまでの三ヶ月間、介護のために泊まり込んだ病院で、高齢者やその家族が抱える厳しい現実を目のあたりにした。日々、介護するなかで、その仕事がいかに重要で、かつ人々に求められているものであるかも分かった。近い将来、必ずや実現したいと考えている。」
「当然、店頭公開のあとは東証二部・一部上場を目指すが、それが実現したとしても私は満足しないだろう。年商が100億円になっても一千億円を目指し、一千億円を達成しても、その上を目指す。」
昨年のグッドウィルグループの連結売上高は1860億円程度であり、今年度は今回の一件がなければ、2500億円程度の売上げがあったと予想されます。
本書を読むと、現在の状態はすべて折口氏の心の中にあったようです。「反省する」「失敗から学ぶ」などということも、本書を読む限りは氏の心の中に根を下ろしているようなので、今回の件を解決した上で、将来の復活と発展に期待したいものです。
人の嫉妬には気を付けないといけないとも書かれています。最近の週刊誌の報道を見ると、氏がいかに派手な生活を送っていたかということが書かれていますが、我が国では創業して成功した場合、道徳的にならないと(少なくともそう見せないと)本当の意味で社会と調和しないようです。個人的には、年商100億程度の事業を成功させれば、数億程度は派手に遊んでもかまわないと思うのですが。
今回の一件で折口氏の評価は下がってしまいましたが、卓越した才能を持っていることは間違いありません。起業や会社の経営において、本書は学ぶべきところが多い本です。
2007年05月25日
『経営の王道』
飯田 亮著 2007年5月1日発行 580円(税込)
セコムの創業者である飯田亮氏が2003年に書かれた『経営の実際―8つの重要なポイント』が、中経文庫として再出版されたものです。長年にわたるご自身の企業と会社経営の経験をもとに、主として経営に対する基本的な心構えについてやさしく書かれています。
章ごとのタイトルがそのまま内容のエッセンスを表しています。
- 経営とは、創業の基本理念を貫き通すことである
- 経営とは、お客様の立場でシステムづくりを進めることである
- 経営とは、世の中が何を求めているか、その本質を捉えることである
- 経営とは、チャレンジとスピードである
- 経営とは、常に革新する組織カルチャーをつくることである
- 経営とは、目的を実現するプロフェッショナル集団づくりである
- 経営とは、結果責任を具体的に伴うものである
- 経営とは、「社会の深い信頼」を得るブランドを築くことである
本書全体から感じられるのは、「流れる水は濁らない」という印象でしょうか。常に内省を通じて自己変革するという精神が徹底しています。
変わったところでは、「企業と社会の関係も男女の恋愛感情と同じである」という主張です。著者によると、「外から見て、色気というか艶っぽさのない企業は好ましい存在ではない」ということです。頼もしさ、優しさ、躍動性、魅力などの恋愛感情に似た思いで見られる企業のみが、持続・発展が可能ということです。
確かに、利益のみを求めて余裕がないと、ギラギラしている異性も見るようで、何となく安心できない思いを抱いてしまいます。本業をしっかりやっているからこそ出てきた主張であると思います。
経営論のみならず、人生論としても面白く読める本です。
2007年04月03日
『虚構―堀江と私とライブドア』
宮内 亮治著 2007年3月23日発行 1500円(税抜き)
ライブドアの元CFOであり、No2とも言われた宮内亮治氏が書かれた本です。
本書は、ライブドア事件の当事者が書いた本であり、いままで外部の視点からしか報道されなかったものが、はじめてまとまった形で公になりました。この本を読むと、ライブドアの成長の過程は、常に綱渡りであったということがわかります。
ホリエモンの天才的な時代を読む目、著者の経営能力、時代の流れなどが重なり、ライブドアは急成長を遂げましたが、そのためかえって市場の期待が大きくなり、常に無理をしながら進まないといけなくなったようです。うまくいきすぎたための失敗とも言えるでしょう。
急成長する企業が陥りがちなさまざまな問題点が書かれており、ベンチャーの経営者にとって参考になると思います。ライブドア事件の一番の教訓は、やはりエスタブリッシュメントと正面からぶつからない方が良いということかもしれません。
ソフトバンクもボーダフォンを買収してから、あまり悪く書かれなくなったような気がします。買収の際に、多額の借入金を大手の銀行からしており、エスタブリッシュメントと運命共同体となったからでしょうか。ライブドアはほとんど借入金がありませんでした。
宮内氏は容疑を大筋で認め、ホリエモンは否認しています。本書では、そのことについて理解しがたいように書かれていました。おそらくこれは善し悪しの問題ではなく、もともとの人間の性質の違いによるものでしょう。司法的な戦略もあるのでしょうが、やはり創業者は芯が固いということがあると思います。
事件の当事者の本ではありますが、対立する片方の視点なので、ホリエモンの本が将来出版されるようであれば、読み比べてみたいところです。
2007年03月27日
『吉野家 安部修仁 逆境の経営学』
戸田 顕司著 2007年3月12日発行 1500円(税抜き)
著者は日経ビジネスの記者です。本書は、吉野家ディー・アンド・シーの社長である安部修仁氏へのインタビューをもとに書かれています。
安部修仁氏はアルバイトから社長になられており、一部上場企業としてはユニークな経歴をお持ちです。過去に伊藤元重氏との対談として『吉野家の経済学』があり、日経ビジネス人文庫で手軽に読めます。現場に即した話が多く、本書はそちらを読んでからの方がより興味深く読めます。
本書は、ここ数年のBSE問題によるアメリカ産牛肉の輸入禁止を、吉野家がどのように乗り切ったかというテーマを中心として、安部氏の経営哲学が語られています。
個人的に一番参考になったのは、リスクヘッジの話です。吉野家は牛丼以外のメニューはなく、品数を分散することによってはリスクヘッジをしていません。よく批判される点のようです。
本書によると、逆にメニューを牛丼一本に絞ることにより、一般的な外食産業に比べて、売上げと営業利益率を挙げ、キャッシュを蓄積することにより、リスクヘッジをしているとのことです。時間の次元を含めてのリスクヘッジということです。
はからずも今回のBSE騒動で、その方針の有効性が証明されたようです。BSE騒動経過中、吉野家の株価については注目していたのですが、あまり下がりませんでした。吉野家のブランドはもちろんですが、手元にキャッシュがあることについても市場が評価していたのでしょう。
逆に考えると、事業が集中している会社について評価する場合には、不測の事態に備えて安全性を重視した方がよいということでしょう。キャッシュリッチな企業については、資産を有効活用していないのではないかとの批判があり、しばしば買収の標的にされることがありますが、吉野家のような意味でキャッシュ保有している場合は、それなりに意味があるということがわかります。
吉野家に限らず、ある会社についての経営の本を読むと、興味を持ってその会社の店に行ったり商品を利用したりできます。
2007年03月15日
『リクルートのDNA』
江副 浩正著 2007年3月10日発行 686円(税抜き)
リクルートの創業者である江副浩正さんが書かれた本です。江副さんというと、20年近く前に世を騒がせたリクルート事件の印象が非常に強く、私の年代では、その頃は社会的なことがよくわからなかったため、世間がどうして大騒ぎしているのかわからなかったけれどもしっかり名前だけは記憶に残っている方です。
リクルートが創業したのは1960年なので、すでに設立から50年近く経ちます。一時期バブル期の過大な借金で苦しんだようですが、現在は企業としては完全に復活しています。『R25』を街のあちこちで目にしますが、積まれてからすぐになくなっています。
本書は、著者がリクルートを発展させる時に考え実践することによって身につけられた、数々の現場に即した知恵がちりばめられており、普遍性があるため現在でも十分に参考になる内容です。著者の経営理念とモットーを紹介すると、
- 誰もしていないことをする主義
- わからないことはお客様に聞く主義
- ナンバーワン主義
- 社員皆経営者主義
- 社員皆株主
- 健全な赤字事業を持つ
- 少数精鋭主義
- 自己管理を大切に
- 自分のために学び働く
- マナーとモラルを大切にする
などがあります。
5の「社員皆株主」はリスクヘッジの点からはあまりよくないかもしれませんが、さすがに社内から数々の起業家・企画家などを生み出した社風だけのことはあります。総じてリクルート出身の方が書かれた本は面白い本が多いですね。
本だけの感想ですが、著者から受ける経営者としての印象は、『千円札は拾うな。』の著者であるワイキューブ社長の安田佳生さんから受けるものと似ています。なるべく社員が働きやすい企業環境を用意することが社長の仕事であるという方針に徹しています。
本書では、松下、ホンダ、ソニー、京セラ、セブンイレブン、森ビル、ソフトバンクの経営者との個人的なつきあいによるエピソードも出てきますが、話として興味深く読めました。
また、成功する起業家20ヶ条などもあります。リクルートが企業としてどのように発展したかということについても詳しく書かれており、著者は時代の流れを読み、うまく乗ることのできた、経営者としてきわめて優秀な方であったと思われます。
リクルートが発展するにおいて、新聞社などの広告業務とバッティングするところがあり、新聞社などにあまりよく思われていなかったかもしれないという話がさりげなくさらりと出てきましたが、ひょっとすると著者がさりげなくどうしても書いておきたかったところかもしれません。
本書は企業や会社経営に関わる方であれば、得られるところが大きい本であると思います。
2006年12月31日
『三洋電機 井植敏の告白』
大西 康之著 2006年11月6日発行 1700円(税抜き)
三洋電機の創業者である井植歳男氏の長男であり、社長、会長、代表取締役として20年間トップに君臨した井植敏氏のインタビューに基づく、三洋電機についての本です。
三洋電機の業績不振については、ここ数年マスコミでも繰り返し報道されてきました。比較的最近では、ジャーナリストの野中ともよさんがCEOになって話題になりましたね。
三洋電機といえば、電機大手最後の同族企業といわれていました。本書の内容も同族企業としての三洋電機に焦点を当てており、凋落の原因も同族企業であったことを軸に論が展開されています。松下、西武などの事例からもわかるように、最近の日本社会では、戦後の日本を高度経済成長させたシステムが崩壊し、時代の大きな変わり目となっています。
戦後日本の経済成長については、同族企業によるところも大きかったと思われます。同族企業については、好印象を持たれないことも多いですが、組織としての求心力の強さなど、時代が一定方向に向かって成長を続けているときはメリットも大きいと思われます。
しかしながら、現在の日本のように成長性が低下し、時代に応じた臨機応変な対応が必要な時には時代にそぐわない存在になっているようです。本書にもありましたが、同族企業が力を持って継続するためには、同族内による経営はあきらめて所有に専念する必要があるようです。社員が数千人、数万人もいれば、経営者として有能な存在は明らかに社員から選ぶ方が有利です。たしかに、うまくいっていないところは同族者が経営に関わることにこだわっているところのような気がします。
とくに戦後の日本においては、間接金融が主体の自己資本比率が低いバランスシートの企業が多かったため、いったん経営が傾くと、増資などにより創業者の持ち株比率は急速に低下します。そのことを考えると、潜在的に日本ではかなり前から同族企業の継続は難しかったようです。
本書では、失敗の原因についていろいと詳しく述べられており、それはそれで興味深いのですが、構造的に考えると、現在の同族企業の凋落は遅かれ早かれ予想されたことであったのかもしれません。
もちろん同族内の後継者がたまたま優秀であり、時代の流れに適応して事業が好調なキャノンのような会社はあることにはありますが、例外でしょう。
2006年12月29日
『迷いと決断』
出井 伸之著 2006年12月20日発行 735円
著者は2005年まで10年にわたりソニーのCEOを務めておられました。タイトルは『迷いと決断』となっていますが、本書を読むと『決断と迷い』のほうがふさわしいタイトルなのではないかと思ってしまいます。
ここ10年間のソニーの株価の推移を見ると、ITバブルの時以外は低迷しているといってよい状態です。本書を読むと著者が全身全霊を尽くして経営に当たっていた様子がうかがわれます。海外出張の時など時差を調整するために、睡眠薬などを用いていたというエピソードなどからも、激務の程度がわかります。
低迷の原因として、時代状況が悪かった、10人以上飛び越してのCEO就任だった、創業者以外からの初めてのCEOだった、技術畑出身でなかったなどいろいろな理由が考えられますが、医者による病気の治療がうまくいかなかった時と同じで、経営者の実力は結局は結果で判断されてしまう厳しい世界です。
エピソードとして興味深かったのは、ビル・ゲイツが20代だった頃の著者との会話です。
ゲイツ:「ミスター・イデイ、教えてほしい。ママが僕の会社を上場させようと言うんだよ。これ、どういう意味?」
著者:「もう少し金持ちになる、という意味じゃないの」
ゲイツ:「なるほどね」
著者がまじめに返答していたのかどうかは不明ですが、みなさんだったらどう答えるでしょうか?
本書からは、著者の立場で結局どうすればソニーの低迷を改善できたかということはわかりません。わかるくらいならば実行されているでしょうから、その答えが書かれていないのも無理がないかもしれません。
意図的に書かれていないのかもしれませんが、全体を通して自己の内面的な洞察が読み取れない本でした。